今日のeコマース、とくに、データベースマーケティングでは、顧客のプロフィールあるいは、購買履歴をもとに、その顧客にとってもっとも購買可能性の高い商品をレコメンドされる。ここでは「機械的」「アルゴリズム」「最適化」といった概念がキーワードである。
しかしながら、近年のソーシャルメディアの興隆の波が、コマースの世界にも押し寄せてきた。より人間くさく、ともするとアナログな形での販売促進策である。本稿では、「ソーシャルコマース」と呼ばれるこうした潮流について事例をもとに考えていきたい。
現れてきたソーシャルコマースの成功事例
ソーシャルコマースとして最も有名なのが、リーバイス frends storeである。サイトにアクセスするとFacebookコネクトと呼ばれるFacebookとの連携機能がふんだんに盛り込まれていることがわかる。サイトの右上スペースでは、Facebookファンサイトのコンテンツがマッシュアップされており、Facebookを通じてリーバイスをLike(いいね)と意思表示したFacebook上での友達の写真(アイコン)が所狭しと表示される。リーバイス商品の一つ一つにも、その商品をLikeと表明したユーザ人数と写真が表示される。商品の支持は、商品ごとに設置されたLikeボタンによって意思表示されたものである。このLikeの数で人気商品、友達のうち誰が好きかがわかるようになっている。
ソーシャルコマースとは、このようにショップ側があれこれと商品を宣伝するのではなく、ユーザの友達あるいは一般の消費者に商品の良さを宣伝してもらい、購買へとつなげるマーケティング手法である。また、この中でもとくに、Facebook 上でのマーケティング手法は、Fコマースなどと呼ばれることもある。
楽天でも、マイページにおいて同様に、Facebookコネクトを利用して、ユーザのFacebook上での友達関係を取り込むことができる。ページ上では、自分の友達が一覧にされ、友達の誕生日や、友達の関心ごと、Likeと意思表示されたものがわかる。友達へのプレゼントを誘発するようなつくりになっているところが心憎い。
ファッション通販サイトのZOZOTOWNでは、トップページにて、ツイッターでのZOZOTOWN取扱い商品に関するつぶやきが次々と流れるように表示されていく。ECサイトの多くは、ユーザが能動的に目的の商品を探すものだが、このように、受け身でつぶやきを見るユーザの潜在的な消費意欲を喚起し、思いがけない購買へとつながるかもしれない。ほか、ZOZOTOWNでは、ZOZOPEOPLEというソーシャルメディア自身で運営しており、部分的に投稿内容から、商品の購入へと進むことができるようになっている。
なぜソーシャルコマースだと買いたくなるのか
まずは情報の信頼性である。たとえば、大手ECサイトにおける商品レビューコメントの問題点として、投稿者が、商品を購入していないのに投稿できてしまう点があげられる。最近でも有名な著者の本が、アンチファンによって恣意的な、本の内容とは関係の薄い酷評が掲載され問題になった。一方で、サイト側でも商品を高評価に見せようとして、都合の悪いレビューを削除することが可能である。このように大手ECサイトのレビューシステムは、情報の信頼性において構造的な欠陥を内包して いる。
その点で、ソーシャルコマースは、レビューアの人となりをソーシャルメディア上で確認できる。あるいはそれが自分のよく知る友達であったりする。つまり情報の透明性が高いのである。
次に共感を醸成しやすいことがあげられる。最近では、購買に関する消費者の価値観が、周りからの羨望、自己満足といったものから、周りとのつながり・共感、社会貢献へと変化してきているといわれる。例えば「LED電球に交換する」「東北の生産物を積極的に買う」。こうした購買行動には、環境にやさしいことをしたい、被災者の方々を支援したい、といった消費者の意識がある。こうした価値観は、マスメディアだけでなく、ソーシャルメディア上での情報伝播により大いに広まった。ソーシャルメディアは、このような共感を醸成しやすい。このような共感により人々は購買へと動かされる。
また、消費者が購買のきっかけを得やすいこともあげられる。前述したとおり、楽天マイページでは、友人の誕生日と関心ごとが並んで表示され、友人にプレゼントをしたくなるようなきっかけづくりが行われている。
買いやすくなる工夫を
ただし、ソーシャルメディアを利用したからといって、購買へとつながる共感が自然と生まれるということではない。ショップ側でもコンテキストとタイミングに応じた適切なコメントをするなどの共感醸成のための誘導が必要だろう。
また、大事なのは、ソーシャルメディアで醸成した商品やブランドに対する共感からいかに購買のアクションにつなげていくかである。Likeボタンを押すことと、「購買」ボタンを押す行為には大きな差があるのだ。いかにこの差を埋めていくか。ここがショップ側の腕の見せ所と言える。
現状、ソーシャルコマースは、端緒についたばかりであり、成功事例も限られる。マーケティング手法としてどこまで定着していくか、今後も注目していきたい。