端末ビジネスの行方

ITを活用したサービスを利用するために、ユーザとの接点となるのは、何らかの端末ということになる。ユーザからみれば、接点となるソフトウェアは、ブラウザや特定のアプリケーションであり、必要なソフトウェアが稼動すれば特定の端末に縛られる必要はないはずである。そんな中でも、端末であるiPhone 5を販売するかどうかで通信事業者の株価が大幅に変動するという現象も発生している。それだけサービスとソフトウェアだけではなく、ハードウェアが密接に関連しているとも言える。

端末ビジネスの難しさ

シャープの電子書籍サービスGALPAGOS対応機種の販売停止HPのパソコン部門分離など大手企業による端末ビジネスの撤退ニュースが増えている。さらに、東芝など国内メーカーの携帯電話端末事業に関して合併や撤退のニュースを見ると、単純に端末を製造すれば利益が出るような仕組みは既に崩壊している。携帯電話の場合には、新規に買う需要が少なく、買い替え需要が大半であるため、携帯電話の買い替えは、平均2.5年程度で、これが1年に伸びるだけで、販売量が30%減少してしまう。2008年以降、総務省の指導もあり、通信事業者が販売方法を変更したことで、端末価格が高くなり、販売台数が大幅減になったことも記憶に新しい。そういう意味では、いわゆる携帯電話のガラパゴス化も国内の通信事業者による販売チャネルに過度に依存したことが原因とも言える。

一方、最近の販売では半数を占めると言われるスマートフォンに関しては、買い替えよりも追加で買っているケースが多い。そのため、既存の契約の縛りや使い勝手の違いなどもあり2台持ちの状態が増えている。また、通信事業者もデータ通信費用での売り上げ増が期待できるため買いやすいように端末価格を下げている。

グローバルに見ると、タブレットやスマートフォンなどの端末を構成する部品もモジュール化によりコスト低下が進んでおり、比較的容易に端末を製造できる状況になっている。そのため、安価な中国や台湾などのメーカー製との差別化が容易ではなく、PC同様に低価格化が進んでおり、今後は価格競争に陥る可能性が高い。日本企業は高機能高価格帯を狙うという戦略とっているものの、販売数量はそれほど伸びておらず、必ずしもうまくいっていない。

専用端末の行方

端末という点では、専用端末が多数存在している。例えば、カーナビ市場は非常に大きく、国内でも年間500万台、グローバルでは5000万台出荷されている。日本では、単価も高く自動車に組み込まれた状態で販売されているケースも多いが、取り外して持ち歩けるタイプである海外メーカー製の安価なPNDが主流となりつつあり、低価格化が進んでいる。

他にも、飲食店で使われている注文端末、流通分野で使われている在庫管理用の端末などハンディターミナル(業務用携帯端末)と呼ばれる機器が多数使われている。JEITAの集計によると、国内で年間約35万台が出荷されており、国内で出荷額ベースでも300億円市場となっており、1台当たり平均10万円ということになる。

今後、スマートフォンやタブレットPCの方が一般に専用端末よりも安価であり、同等の機能を実現できるため、置き換えが進むと考えられる。しかしながら、端末の価格下落も進むことになり、専用のハードウェアを提供してきた日本企業にとってはビジネス的には必ずしもプラスにならない可能性もある。

特許で端末ビジネスは守れるのか

スマートフォンやタブレット端末に関しては、現在Appleとサムスンの訴訟が各国で発生しているだけではなく、AppleとNokiaとの間でも裁判となり、AppleがNokiaにライセンス料を支払うなど、Android端末を先行的に設計開発しているHTCも含め、大手の企業間でも多数の訴訟が発生している。訴訟が多数発生するということは、それだけ大きなビジネスでもあるとも言える。GoogleがMotorola mobilityを買収したのも所有する特許のためとも言われている。また、GoogleはIBMからも特許多数を買い取っている。

日本企業も、iモード等に関連した2000年前後に出願されたソフトウェア関連特許を多数有しているはずであるが、多くは国内のみで出願していたこともあり、ほとんど存在感がないのが実情だ。スマートフォンがどれも似たようなものになるのは、構成する部品はモジュール化されており、手で持つことを考えると大きさや形状についてもあまり工夫の余地がないためだ。特に、Android端末はPCと同様にリファレンスモデルがあるため似たものになりやすい。そうした中でも積極的に知財を主張し合う各社は非常にたくましい姿であり、日本企業は知財をあまり活用できていないとも言える。

端末ビジネスは価格戦略が重要

ユーザが気軽に購入できる専用端末としては、Amazon Kindle同様に150ドル前後、1万円であり、日本企業がターゲットとする5万円の端末ではないだろう。国内スマートフォンの実質販売価格は約3万円であるため、従来の携帯電話の5万円に比べて買いやすい。ステークホルダである通信事業者、端末メーカー、サービス事業者、利用者のそれぞれがWin状態になるのは難しいが、2万円程度の端末を少々使うと上限に達してしまうような料金体系ではなく、一般的な利用者向けに通信費用を安くしたり、利益率の高いサービス事業者が通信費用や端末費用を営業経費として負担するなどで、サービスの利用者増とサービスに対応した端末の普及を図ることが最適な状態ではないだろうか。そういう意味では、GoogleがMotorola mobilityの端末をGoogleサービス専用端末として無償で配布するかもしれない。