掃除機になった軍事ロボット

お掃除ロボットが人気だ。アイロボット社のルンバは2010年末までに日本で20万台を売り上げ、先日東芝も再参入した。日常生活で利用されるロボットとして最も成功している(流行したロボットといえばAIBO(ソニー)があるが、玩具に近いため除外して考える)。
このルンバ、海外では400万台以上売れているそうだ。なぜ売れているのか。

掃除機に見えない掃除機

ひとつは「ロボット」よりも「新型掃除機」を全面に打ち出したためである。自律制御や空間認識などの技術を駆使したルンバは最先端のロボット技術の塊と言っても過言ではないが、見た目は円盤型をした電気製品である。消費者にはロボットだろうが掃除機だろうが関係ない。「ちょっとクールで便利な掃除機」が受けたのだ。

しかし、当初日本では売れなかった。東芝も同様の掃除機を2002年頃に販売したが、売れずに撤退した経緯がある。「掃除機は吸引力が重要と考える消費者が多い」「これまでの掃除の仕方と違う」「段差の多い日本の家屋では使えない」などの原因が挙げられていた。最近の主な購入者は30代の共働き世帯だという。家事にかける時間はないが比較的金銭的には余裕がある彼らは、ルンバは少し高いが十分に元が取れると判断したのだろう。また、築浅の住宅に住んでいる割合が高いと考えられ、住宅のバリアフリー化が進んでいるのも要因と考えられる。

軍事技術の民生化に注力

さて、ルンバを開発したアイロボット社は、少し前までは日本ではほとんど知られていなかったが、数カ月前から急に知名度を上げた。そう、原発に投入されたロボットの開発企業である。アイロボット社はもともと軍事ロボットの開発企業なのだ。米国のロボット研究は軍事研究と密接な関わりを持ち、膨大な研究費が投入されている。ルンバはその軍事技術をうまく民生化した例だ。

米国には軍事技術など国の資金で研究開発した技術を民生化、実用化するためのプログラムが多数用意されている。特許のライセンスプログラム、国立研究所と共同開発をする仕組みであるCRADA (Cooperative Research and Development Agreement)のような資金や知的財産に関するプログラムだけでなく、実世界への応用を競うコンテストも活発だ。砂漠を自動操縦で走破できるかを競うDARPA(米国国防省国防高等研究計画局)のグランドチャレンジ、ニュース映像等の内容理解度を競うNIST(米国国立標準技術研究所) TRECVID (Text REtrival Conference Video Retrieval Evaluation)が有名だ。他にもARM (Automonous Robotic Manipulation)プロジェクトでは、ロボットのシミュレータを公開して誰でも開発に関われるようにしている。

ルンバの場合はこれらのプログラムは利用していない模様だが、上記のような民生利用を促進する土壌が背景にあったに違いない。

ルンバに学ぶ

では、日本はどうだろうか。ロボット研究はもちろん軍事研究ではなく、国の資金も活用しながら大学やメーカーが切磋琢磨している。ロボット技術に関しては日本も米国に負けないレベルである。また、「日本メーカーは機能にこだわりすぎる」とよく言われるものの、それでもメーカーはアイロボットのような軍事企業とは比べものにならないほど消費者のニーズを把握している。

技術があってニーズを把握していれば、後は製品企画力が鍵となる。ルンバの経験から、見た目はロボットっぽくなくても良いこと、持っている技術をすべて使わなくても良いこと、既存の生活慣習にとらわれる必要がないことなどがわかった。技術部門と企画・マーケティング部門の知恵を集めて従来にとらわれない発想をしてほしい。せっかく高い技術を有しているのだから宝の持ち腐れではもったいない。完璧なロボットはまだいらない。まずは「ちょっといい家電」が欲しい。自動浴室掃除機があったらうれしいのだが・・・。