日本独自の映像技術を蓄積せよ

近年、様々なプラットフォーム上で3D化をはじめとした映像コンテンツの高度化の勢いが増している。特に、映画・アニメ・ゲームといった映像コンテンツがサービスの主たる部分を占める分野ではその傾向が著しい。映画館では「アバター」の公開以降、臨場感あふれる3D映画が数多くの映画館で上映されており、また一般家庭でも、裸眼で見られる3DテレビやNintendo 3DSといった携帯ゲーム機器など新しい3D対応製品が普及し始めている。

また映像コンテンツは、生活の中の娯楽というだけでなく、経済的にも重要な位置づけを担うようになっている。総務省の「平成22年版情報通信白書」によれば、我が国のコンテンツ市場規模約12兆円のうち、約5.5兆円(全体の約46%)は映像コンテンツとなっており、また経済産業省の「産業構造ビジョン」では、”文化産業立国”として映像コンテンツが戦略分野の一つとして捉えられる。

今回はこのように我々の生活で重要度を増す映像コンテンツについて、CGを中心とした表現技術の開発動向を紹介し、これから見えてくる我が国の映像コンテンツ産業における課題について考える。

身の回りの映像コンテンツで広がる欧米の映像表現技術

近年の技術開発により、普段の生活で楽しむことの出来る映像コンテンツは、立体映像であることもさることながら現実に近い質感を表現した描写が可能となっている。最近では特に、欧米発の映像コンテンツやその基盤プラットフォームにおける先進性が目立っている。

先日、Pixarより公開された映画「カーズ2」では、リアルな視覚効果を実現するため様々な技術が適用されている。本作品は擬人化された車たちが活躍する世界観で描かれた映画であるが、波打つ水面をよりリアルにする工夫や、今までは捨象されていた車の外装に映る景色を表現するため、塗装や形状の特性を踏まえた光の物理的挙動をリアルタイムに計算するライティングエンジンが用いられるなど、随所にリアルな視覚効果を与える最新の映像技術が組み込まれている。

ゲームの分野でもより現実世界に近い描画が目指した技術開発が進んでおり、その競争は激しい。その傾向が特に顕著なのがグラフィック処理や物理演算処理などゲーム全般の処理を担当するゲームエンジンの開発である。そのひとつ、Crytek社の“CryEngine3”は先の波面や光学的特性を表現する視覚効果技術を多く導入し、このエンジンを搭載した”Crysis2″の映像表現は驚きをもって迎えられた。また同エンジンは、映画作成や都市設計シミュレータといった非ゲーム分野の応用も見込まれている。

またゲームエンジンのマルチプラットフォーム化も進んでおり、最近では特にスマートフォン上のシェア争いが激化している。PCゲームにおいて“CryEngine3”と並ぶ認知度をもつEpic Games社の“Unreal Engine3”を用いて開発されたiOSゲームアプリ”infinity Brade”が、スマートフォンで出来る表現の可能性を広くを認知させたほか、無料版など低コスト主体の提供を行うUnity Technologies社の”Unity”がスマートフォン向け3Dゲームエンジンのシェアを急速に伸ばすなど、高度な映像技術だけでなく低コスト・市場投入時間の短縮を目指し各社がしのぎを削っている。

映画・ゲームエンジンの例に共通し、先進的な映像技術が各社または各業界でソフトウェアとして蓄積され、次の作品に活かされている。その甲斐あってか、かつては中途半端なリアルさで日本人にはあまり受け入れられていなかった欧米の映像コンテンツも、今では多くのファンを獲得するに至っている。

日本における映像表現への取り組み

日本においても、映像コンテンツの先進技術開発は盛んである。ゲームエンジンの例では、カプコン社”MT Framework”、シリコンスタジオ社の”OROCHI”、プレミアムエージェンシー社の”千鳥”などの開発が進んでおり、欧米のゲームエンジン同様サードパーティへの展開を視野に入れている。
また世界最大のCG・VRの学会である“SIGGRAPH”の今年度大会(2011/8/7-8/11)では、バンダイナムコ社のComputer Animation Festival部門における入選や、進行中の研究発表を行うPOSTERセッションでの選定作品の多くが日本の大学からの応募であるなど活躍を見せている。今年度だけでなくSIGGRAPHにおけるこれまでの掲載論文数は、群を抜く米国を除けば、日本は存在感を示しており特にアジア内では随一である。また同学会のアジア版であるSIGGRAPH Asiaを2009年に初めて日本で開催するに至っている。

また、近年では映像コンテンツの創作を担う人材を支援する施策も整備されてきた。文化庁メディア芸術祭ではアニメーション・マンガといった分野に焦点をあて、グローバルに作品を応募し紹介しており、年々規模を拡大している。今では、若手クリエイターの交流・育成の場として重要な役割を担うようになっており、今年度は学生CGコンテストを協賛開催している。

日本独自の映像文化への期待

欧米による高度な表現技術をもつコンテンツが生まれつつあるなか、日本ならではの映像表現を活かしつつ独自の映像文化を継続していくことが必要だ。日本ではかねてより、リアルさだけを追い求めるのではなく独自の質感や情感を持った映像表現を得意にしてきた。これら独自の表現技術と先進的技術の融合によって、他国には産めない映像コンテンツの創出することが求められる。

これには今までクリエイターの力量に依存していた情感・質感の表現技術や、リアルな3D技術をどこまで使うかのノウハウが蓄積・共有されることが重要だ。必ずしも物理法則にしたがうとは限らない映像表現を汎用的な形で資産にすることは難しく、また3D技術とどう共存するかも明確な境界があるわけではない。しかし、次代のコンテンツ産業において日本が優位に立ち独自の映像文化を継続していくためには、常に考えなければならない課題である。

また、個人レベルにおける映像創作からのボトムアップも期待される。近年では個人で利用できる技術のレベルも向上し、映像コンテンツにこめることのできる情報量が増加している。このような状況を活かし、個人レベルから創発する豊かな映像文化が構築されることが望まれる。様々なプラットフォームで高度な映像表現が可能になり、映像コンテンツを受信する媒体がテレビとは限らなくなった今、個人が発信する映像コンテンツの役割は大きい。動画共有サイトなど各種コミュニケーションプラットフォームを用いて、多様な人々が互いの作品で創造力を刺激しあい、素晴らしい作品をつくっていく文化が浸透していくことを期待したい。

映像表現技術の発達により人間の創造性はさらに高まった。創作や共感の楽しみをもちつつ、これからも映像文化が発展し続けていくことを願いたい。