自己情報コントロール権のもたらす変化と価値

社会保障・税の番号制度についての基本方針』の「理念・実現すべき社会」において、「国民の権利を守り、国民が自己情報をコントロールできる社会」とある。『自己情報コントロール権』は、文字通り自己の私的な情報の流通を自分で管理する権利である。個人の行動が生み出す(記録される)データの量が増え、この自己情報コントロール権の影響もあるのだろうか、個人のデータの流通に変化が出てきている。

資産クラスとしての個人の情報

個人の情報を資産クラスというと、日本では個人情報保護法への抵触を連想してしまうが、経済が停滞する先進国では切り札の一つとして考えられている。国際経済フォーラムで提示された、パーソナルデータ・エコシステム(Personal Data Ecosystem)と呼ばれる枠組みでは、個人の行動で生み出すデータを構造化して価値を持たせ、資産と見なしている。

また、財政改革を進める英国では、『消費者にチカラを』ということで、“mydata”構想が公表されている。
経済が停滞するなかで、賢いお買い物をするために、消費者にチカラ、すなわち購買履歴の情報コントロール権を与えるというものである。情報はWebにたくさんあるが、実は一番重要な自分自身の情報にアクセスできていないという問題に答えている。mydataは現時点で、クレジットカード、ユーティリティ、携帯電話事業者、IT企業からなる20の企業が参加を予定している。

匿名化した医療データの利活用

医療データの流れにも変化が見られる。以前より、医療データベースに医師の診察データや処方箋データを集めて、臨床や製薬研究に役立てるという話はあった。最近の変化としては、情報源と情報の流れが変わっている。クリニカルデータ国際シンポジウムにおけるJohn D. Halamka 教授(Chief Information Officer, Beth Israel Deaconess and Harvard Medical School)の『臨床研究を行うための新しく・革新的なクリニカルデータの情報源』という発表の中で、病院、保険、医師会、医療データコンソーシアムに加え、EHR/PHR(電子健康記録/個人健康記録)、公衆衛生機関、ヘルスケア機器(Continua)、医療DB連携(Shrine)からのデータが増えているという。

EHRのデータは、フリーのEHRであるPractice Fusionのサンプル匿名化データなどが米国保健福祉省 (HHS)のopengovdataでも紹介され、開発者のカンファレンスなどでも分析対象として使われている。匿名化したデータの利活用に同意する、という自己情報コントロールの後に、プライバシー保護データマイニングにより、公益に供するという構図である。

日本国内では

国内では、インターネット上でのデータ流出事故のニュースなども流れ、個人情報について漠然とした不安を持っているのが現状だろう。
ただ、消費者の意識の状況として、興味深いアンケート結果がある。
好みの商品のお勧めや鉄道遅延のお知らせなどを教えてくれる『生活情報サービス』に、どの個人の情報ならば出してもよいか、という問いに対し、目的外使用がなければ、

  • 現在位置 30.4%
  • 購入履歴 18.6%

が公開可能としている(他の項目は報告書をご確認頂きたい)。
それが、会員ポイントやマイレージなどが付くとなると

  • 現在位置 44.3%(提供する:14.0%+やや抵抗があるが提供する30.3%)
  • 購入履歴 43.0%(提供する:10.7%+やや抵抗があるが提供する32.3%)

のように、かなり積極的になる。これは、個人のデータに対価を求めているととらえられる。同様の結果が筆者らが実施した位置情報に関するアンケートでも、位置情報を提供することへの見返りを求めるという形で見られている。

最近では、国主導で、マイポータルどこでもMY病院、という国民に自己情報コントロールを与える流れがある。
こうした取り組みは、記録を見られるだけでなく、個人が対価を求める動きと連動したサービスの存在が浸透に影響するのではないだろうか。あるいはプライバシー保護データマイニングにより公益に供する仕組みでも良いのかもしれない。
いずれにしても、自己情報コントロール権に関しては、メリットとデメリットを広く議論し、突然与えられて戸惑う人を減らすことが肝要になる。