拡大するゲームの未来と役割

今日を代表するゲームとは

筆者はゲーム好きであるため、今回はゲームの話をしたい。早速だが、いま業界を代表するゲームというとなにが思い浮かぶだろうか。2010年度の全世界売上本数から導けば、答えはActivision社の「Call of
Duty: Black
Ops」になるだろう。これは発売初日だけで560万本売れたという大人気の戦争ゲームで、ハリウッド映画風の派手で無茶苦茶な展開と、延々と遊べるネットワーク対戦機能が魅力である。

しかしランキングを見れば分かるとおり、さらに目立つのは「Wiiスポーツ」やマリオ、ポケモンといったゲームソフトで人気を集めた任天堂だ。任天堂はWiiで体感ゲームを、ニンテンドーDSで二画面のタッチ操作を、それぞれゲーム機に導入して大きな人気を得た。今年2月に発売された、3Dディスプレイを搭載するニンテンドー3DSは、まだソフトウェアが不足しているが、それでも本体のカメラを使って遊べる拡張現実ゲーム(ARゲームズ)がはじめから内蔵されているのは、今後のゲーム業界を占う上で興味深い。任天堂はDSでも、犬を育てる「Nintendogs」(筆者の柴犬は元気だろうか)、大ヒットとなった脳トレ、はては料理のレシピソフトなど、従来の「ゲーム」観に縛られない作品で人気を集めた。どうもゲームとは簡単な概念ではないようだ。

拡大するゲームプラットフォーム

ゲーム市場を盛り上げているのは任天堂だけではない。任天堂を脅かすような新しいプラットフォームの盛り上がりが、いまのゲーム業界にはふたつも生まれている。ひとつはソーシャルゲーム。具体的には、Facebookなどで友達と気軽に遊べるようなゲームだ。代表例はZynga社が運営する「FarmVille」(日本ではファームビレッジ)で、これは畑に種を撒いては間を置いて収穫する、とても分かりやすい仕組みである。しかし、そのシンプルさと否が応でも友達を巻き込んでいくデザインが受け、今ではZyngaの企業価値はテレビゲームソフト最大手のEAを凌ぐとまで言われている。日本でもmixiで遊べるサンシャイン牧場などが人気だ。

もうひとつはモバイル分野である。日本ではご存知モバゲーやグリーがたいへん好調であり、企業買収による世界進出も着々と進めている。またiPhoneやAndroidといったスマートフォン向けのゲームは国内外を問わず人気で、たとえばRovio
Mobile社が提供する、豚に向かって鳥を放つだけのシンプルゲーム「Angry Bird」は、いまや世界で5000万ポンド(約70億円)を売り上げるほどだ。

モバイル分野では、ゲームとゲームでないものの境界を彷徨うような面白いアプリケーションも多い。たとえばロケーションサービスのFoursquareでは、レストランでの「チェックイン」で「バッジ」を獲得できるなど、ゲーム性を取り入れることでユーザを獲得している。ロケーションサービスはGoogleやFacebookも取り組んでおり、今後はクーポンや電子マネーと連携する、さらに壮大な「ゲーム」となっていく可能性がある。(そういえば時間制でクーポンを購入するグルーポンも、どこかゲーム的である)

拡大するゲームのありかた

ゲームはどこまでがゲームなのだろうか。今年はじめに日本語訳が出版された「ルールズ・オブ・プレイ」という書籍は、ゲームデザインにおけるさまざまな概念についてまとめた大著であり、ゲームを定義するまでに150ページ以上を要するが、これまでの諸説を丁寧にまとめており、たいへん面白い。この本では、優れたゲームがいかに私たちを惹きつけ、楽しませるために、注意深くデザインされているかが分かるようになっている。

もしかすると、ゲームの概念などどうでもいいと思われるかもしれない。しかしスマートフォンのようなモバイル端末が普及し、さまざまなセンサが安価になり、人々がインターネットで多くの活動が行うようになった今、あらゆることがゲーム的になっていくように感じられる。たとえば任天堂は「Wii
Fit」で、フィットネスをゲーム化した。健康管理が苦手な人も、ゲームの一環としてならば運動を続けられる可能性がある。auの携帯電話で利用できるRun&Walkでは、走った距離を記録することで、ランニングをゲーム的に楽しめる。ゲーム研究者で友人の井上明人氏は、節電のために消費電力を減らすことを競う#denkimeterなるゲームを提唱している。貯金したい人向けには、電子マネーと連携させた貯蓄ゲームができるだろう。美味しいお店を探すゲーム、疎遠になった友人と連絡をとるゲーム、なんでも考えられるが、ただゲームを名乗ればいいというわけではない。大前提として、面白いものでなければいけない。

近頃は企業におけるチームワークを活性化させるため、社内のみんなでボードゲームを遊ぶという例もあるようだ。この産経新聞の記事で触れられている「パンデミック」は、世界中に拡散するウィルスをプレーヤー全員で防ぐという協力型ゲームであり、プレイ中に自然と議論が生まれ、役割を分担し、目的へ一致団結することができる(あるいは失敗して全員で反省する)。また、筆者がこのごろよく遊んでいる「ディクシット」というカードゲームでは、カードの絵柄をもとに互いにクイズを出し合うことで、お互いの感性がおのずと分かるようになっている。もちろん、いずれのゲームも遊んでいて面白い、たいへん良く出来たゲームである。

教育や社会に役立つゲームはシリアスゲームと呼ばれている。しかしゲームが多様化し、また社会がゲーム化していけば、藤本徹氏の著作「シリアスゲーム」にあるとおり、ゲームは自然とシリアスになっていくと考えられる。つらいことや面倒なことも、ゲームとして再構築できれば楽しくなるかもしれない。ゲームを通じて人間関係や社会の中に新しい発見を見い出すこともあるだろう。いかに毎日を楽しく、効率的に過ごしていくかについて、ゲームから学ぶべきことはかなり多いはずだ。