ネットにおけるデマ拡散防止のための取り組み

今回の震災では安否確認専用のハッシュタグ(話題やジャンルを分類するためにツイート(つぶやき)につけるタグ)ができるなど、Twitterが安否確認や助けを求める手段として有効に活用された。また、今も原発や放射線に関する状況について、TwitterやSNS、ブログを通して多くの情報が拡散している。それらは災害支援や状況理解の大きな助けとなっているが、一方では心無い人による多くのデマが流れ、混乱や風評被害をもたらしている。今回はネットにおけるデマ拡散の防止について考えてみたい。

デマ拡散防止のための取り組み

現在、デマ拡散防止についての取り組みは個人から政府機関まで多くの人々により行われている。ネット上では安易にデマを広めないよう有志により多くの呼びかけが行われており、東日本大震災に関するデマの情報についてまとめて提供しているサイトも多く存在する。

総務省もデマについて自主的に削除することを含め、適切な対応をとるよう社団法人電気通信事業者協会、社団法人日本インターネットプロバイダー協会(JAIPA)などの通信関連団体に要請しており、JAIPAは「ネット上のデマ」についてインターネット利用者として知っておきたいことや気を付けるべきことなどについてまとめた文書を公開している。その文書の中では、情報を受け取った際にはその情報の出所を確認すること、メールの転送やTwitterでのリツイート(他のユーザのツイートを引用して自分のアカウントから発信すること)による情報の拡散は十分注意して行うことなどが呼びかけられている。

また、以前から韓国ではインターネット実名制が導入されており、先月も「放射能韓国上陸」というデマを流した最初の発信源が特定され、警察により事情聴取を受ける事態となっている(参考記事)。インターネット実名制とは、書き込む際は日本同様のハンドルネームで問題ないが、書き込むサイトへのユーザ登録時には住民登録番号や実名での本人確認が必須であるという制度である。この制度の是非はともかく、少なからずデマの拡散の抑止力となっている面はあるだろう。

デマかどうか自動で識別する技術

しかしながら、現状ではデマかどうか判断することが難しい情報も多く、よかれと思って流した情報が後にデマだと判明したということも多かれ少なかれあるだろう。そこで、技術的にその情報の信頼性を測ろうというアプローチもある。 Yahoo! ResearchのCastilloらは、Twitterで広がる情報についてデマかどうか自動で識別する研究を行っており、約86%という識別結果が得られている。

今回の震災では、Twitterで多くの有益な情報が拡がる一方で、多くのデマもまた拡散している。リツイートの繰り返しにより急速に拡散する情報をあなたはどのようにデマか、それとも真実か判断しただろうか。多くの関連するツイートの中で、「デマ注意」といったツイートが流れていたものや否定の意見がなされているものについてデマだと判断した人もいるだろう。あるいは、自分でそのツイートの出元を念入りに調べて、デマだと判断した人もいるかもしれない。

Castilloらの研究では、デマである情報の場合は、真実である情報と比べ、言及しているツイートの中に疑問や否定の単語が多く含まれ、肯定の単語が少ないことが統計的に確認されている。また、ツイートの多い、よりアクティブなユーザは信頼できる情報を流すことが多く、フォロー(他のユーザのツイートを受信するように登録すること)数やフォロワー(他のユーザのツイートを受信するように登録しているユーザ)が多く比較的アカウントが新しいユーザもまた同様であるとされている。これらの結果を踏まえて、その情報に関してのツイート数、ツイートに含まれる疑問や否定の単語数に加え、ユーザのフォロワー数や情報の伝搬の特徴まで組み込んで、学習手法によりデマかどうかの識別を行っている。

他にも、レビューサイトやブログに対して信頼性を測る研究は活発に行われ始めている。このような技術が実装され、ユーザに情報の信頼度のようなスコアが提示されるようになれば、ネット上での情報について私たちが真偽を判断する大きな助けとなるだろう。

責任を持った情報発信を

ブログやTwitterなどのCGM(Consumer Generated Media)は、かつては難しかった個人の情報発信を容易にし、ボタン一つで個人が全世界に情報発信できる環境をもたらした。特に、短い文章に制限されるTwitterは、ブログと比べても情報発信が容易であり、さらに情報発信者が増えている。それは情報流通のスピードを極端に早め、流通している情報量の莫大な増加ももたらしたため、ユーザにとっては欲しい情報とより合致した情報が、ときにはリアルタイムで手に入るようになっている。

しかしながら、今回、CGMはデマを大きく拡散させ、人々の不安を煽ったり混乱をもたらしたりするというネガティブな一面もさらけだした。デマ拡散を防ぐための多くの呼びかけは行われているものの、今後、信頼性に関する指標を自動で算出してくれるような、人の判断の助けとなる技術は必要になってくるだろう。ただ、それらは大きな助けとなりうるが、最終的に情報の信頼性を判断するのは人であることには変わりはない。個人でも簡単に情報発信が可能となった今、匿名であろうとなかろうと、しっかりと自分の情報発信に責任を持つことが求められている。