ネットスーパーで買い物弱者を救え

先日、筆者の家から徒歩圏にあったスーパーが閉店してしまい、食べ物や、日用品の買い足しなど、ちょっとした買い物を気軽にできなくなってしまった。23区内なら、スーパーの一つや二つ閉店しても、買い物に困ることはないだろう。しかし郊外・地方では、一つのスーパーの閉店が、食料品など日常の買い物を満足にできない「買い物弱者」を生む大きな問題を引き起こしている。

深刻な買い物弱者問題

買い物弱者は、経産省の調査では「流通機能や交通網の弱体化とともに、食料品等の日常の買い物が困難な状況に置かれている人々」と定義され、その数は600万人程度とも推計されている。具体的には、近隣にスーパーがない、交通手段がない高齢者のほか、子育て中で遠出できない主婦などが該当する。

長野県によると、県内中山間地域の5人に一人が買い物弱者であり、また、買い物弱者の高齢者とそうでない高齢者の間で毎日食べている食品群数に差がでているとのことである。食生活にまで影響が及んでいることが示唆される深刻な結果であり、これはライフラインの崩壊を想起させる

買い物弱者支援はネットスーパーが第一候補

対抗策はあるのだろうか。先に紹介した経産省の調査では、対策として、1)宅配サービス、2)移動販売、3)移動手段(交通機関)、4)近場店舗の4つをあげており、各々の事例もいくつか蓄積されてきている。

コスト面から考えると、(地域特性にもよるが)もっとも有望なのは1)の宅配サービスだろう。ただし、買い物注文を、電話やFAXで受けていたのでは、効率性に限界があり、事業は拡大できない。ネットで買い物注文を受け付けるネットスーパー(あるいはネット注文へ対応している生協)が買い物弱者支援策としての第一候補だ。

スーパー業界では、ネットスーパーは、まさに今が勝負どころであり、大手・準大手スーパーはもちろんのこと、中小スーパーも次々とネットスーパー事業を開始し始めている。スーパーによっては、限定的ではあるが、ネットスーパーの宅配エリアに、山間地域や過疎地域を含めるなどして買い物弱者支援を謳っているところもある。今後も、こうした取り組みは増えていくだろう。

買い物弱者にとってのネットスーパーの課題

まずは、使いやすさの問題である。買い物弱者の中心となる高齢者は、ITリテラシや視力が十分でなく、PCでネットスーパーを利用することは相当に厳しい。

最近、セブンイレブンイオンは、タブレット端末を利用したネットスーパー実験を始めた。キーボード・マウスの代わりに、直感的な操作が可能なタッチパネル式液晶を採用することで、これまでターゲットの対象外だった高齢者を取り込むねらいがあるのだろう。しかしながら、タブレット端末を採用したからといって、高齢者が簡単に買い物できるのだろうか。タブレット端末で、PC用のネットスーパー・サイトを表示しても使い勝手は変わらない。タブレット端末用の、特に高齢者向きのユーザインタフェースは今後の大きなテーマである。

次に宅配コストの問題。ネットスーパー事業は、単独で黒字化しているところは少ない。この大きな要因は、宅配にかかるコストを、利用者が実質的に支払っていないことである。宅配料は、原価で一件あたり数百円は下らないと言われる。事業の継続のためには、納得感のある価格体系で、利用者に相応の負担をしてもらうことが不可避であろう。一方で、宅配コストの削減も必要だ。 ファミリーマートは毎日新聞と共同で、宅配実験を実施している。既存新聞販売店の配達網を利用することで、低コストでの宅配の実現を狙うものである。同様に牛乳配達やピザ配達などの既存配達網も、うまく活用すれば宅配の低コスト化に寄与するだろう。

最後に通信料の問題。先に紹介したセブンイレブンの実験では、利用者が、NTT東日本の光回線に入会することが求められる。高齢者が、買い物だけのために月数千円の支出をすることは厳しいだろう。電話サービスなどとのお得なセット料金や、買い物弱者の利用に限って、複数世帯が共同で回線を利用できる割安なプランを求めたい。

買い物弱者問題は、国内の少子高齢化による生活需要量の減退でスーパーが撤退することや、核家族化の進行で、気軽に買い物を頼めなくなったことが大きな原因だ。こうした傾向は今後さらに加速していくと考えられ、買い物弱者はもっと増えていく。今後、IT、ビジネスモデル、オペレーション上の工夫により、郊外・地方でも適切な価格で買い物ができるようになり、この問題が軽減されることが望まれる。