パケットは自由のままでいられるのか

新しい通信サービスであるLTEサービスが国内外で開始され、価格を含めた実際のサービスレベルが明らかになってきている。通信事業者としては、新たに設備投資を行なってユーザへのサービス向上を提供しており、どこからか対価を得て、利益を上げる必要がある。一方で、定額制に慣れているユーザから追加費用をもらえるのかという疑問もある。通信事業者は新しい通信サービスにもかかわらず収益が上がらないというジレンマに陥る可能性がある。

データ通信定額制の限界

携帯電話の普及率が先進国ではほぼ100%になっている状態の中、世界中でモバイルインターネットの需要が拡大している。特に、スマートフォンやタブレットPCの出荷が大幅に増えており、携帯電話網につながる機器が増えている。これらの機器は、通常の携帯電話に比べてデータ通信量が圧倒的に多く、1台当たりで平均すると数十倍の通信量となっている。新規販売分の約半数がスマートフォンと言われており、安価な販売価格が理由だろう。スマートフォンの販売価格が安いのはグローバルに調達できるからだけではなく、従来の携帯電話に比べてデータ通信料金が高くなるため、通信事業者が販売店に対するインセンティブを増やして販売に力を入れているためだ。一方、当然のことながら、通常のパケット単位の課金をすると、膨大な料金になってしまうため、データ通信の料金は定額制になっている。

通信事業者のリソースが余っている状況では、端末の販売と月額使用料金による売上増につながる。一方、電波を使うため通信容量には限界があり、ユーザへのサービスレベルを維持するためには基地局を増やしたり、新しい方式を導入するなどの設備投資が必要である。既存の3G方式についても、複数の周波数を同時に使えるようにしたり、電波環境がいいところでは変調方式を変えることで、高速化のための設備投資も行なわれている。

しかしながら、そうした需供バランスが崩れつつあり、国内外でつながりにくいといった不満が発生している。そこで、通信事業者によっては、料金の定額制をやめて従量制に戻っている事業者もある。実際、3Gよりも高速なLTEサービスについても完全な無制限ではなく、5GB以上の通信量については従量制が採られている。これはデータ通信の総量が増えているだけではなく、数%のユーザがトラフィックの半分を占めるなど、一部のユーザの利用が極端に多いこともよく言われている。極端なユーザに対する制限とみることもできるが、以前のようなP2Pによるファイル共有のトラフィックではなく、高画質な動画利用やPCからのデータ通信によるものとみられ、ユーザにとっても不満が残る。

ネットワークの中立性

そうした背景からでてきたのが、通信事業者がコンテンツやサービスに応じて通信回線を制御する技術であるDPI(Deep Packet Inspection)という方式で、ユーザがどんなサービスを利用しているのかチェックする仕組みである。通信事業者がサービス別のパケット単位で課金や帯域制御を行うようにできないかということが検討されている。例えば、YouTueなど映像配信サービスは従量制で、通常のWeb利用は定額制にするというようなことを通信事業者が独自に定めるということである。

一方、通信インフラを提供する通信事業者がその上で提供されるサービスに関して制限をかけられるようにするのは、通信の秘密や公平性の観点から「ネットワークの中立性」というテーマで各国政府で議論が行なわれている。これは、通信インフラただ乗り批判のあるサービス事業者と通信事業者との綱引きの場でもある。最終的には、通信の秘密が守られる形で、サービス事業者が通信事業者に対して何らかの追加費用を支払う方式が定着するのではないかとみられる。

政府による遮断との戦い

先進国を中心にネットワークの中立性が議論される中、国内治安を維持するという目的で、一部の政府ではインターネットサービスや特定のサービスの利用を遮断しているケースが見られる。また昨今のエジプトやチュニジアのデモ行動には、SNSサービスが大きな影響を及ぼしたといわれている。そうした状況を鑑みると、政情不安な国ではより広範囲に制限をすることになるだろう。しかしながら、すべてのサービスを止めるのは人海戦術的な制限が必要であり、携帯電話やインターネットの普及率の増加に伴い政府が一元的に情報を止めるのは難しくなるだろう。

現状ではパケットは料金的な自由は難しくなっているものの、適切な対価を支払うことで、流通の自由が保障される方が望ましいのではないだろうか。ユーザがその対価を直接払う場合も多いが、今後、例えば、広告収入やサービス事業収入をシェアするなどサービス事業者が通信事業者間で支払われることで、安価なまま利用できる仕組みもあるだろう。