変わり行く標準化に対応せよ

近年、急速な経済発展を続け、膨張する中国市場に益々の注目が集まっている。
しかしながら、中国の存在感が増しているのは市場だけではない。
技術面においても中国の躍進は顕著であり、世界の主要学術誌への論文発表数では既に中国は日本を越えており、日米欧中韓への特許出願件数でも日本34万件に対し中国31万件と日本に迫る勢いである(参考記事)。
また、薄型テレビの中国市場では、2005年には19.3%あった日本企業のシェアが2009年では9.6%に低下し、市場シェア5位までを中国メーカーが占めている(参考記事)。

いずれは人口の減少とともに国内市場が縮小する、日本は技術面においても中国の急追を受けている。
そのような状況の中で、日本企業は何をすべきだろうか。
やはり日本が誇るものは今まで長年培ってきた技術であり、日本が得意とする分野での高い技術力により対抗していくべきであろう。
しかし、それは技術開発だけしていればいいというものではない。
近年、あり方が大きく変化した標準化に対応して、世界でのプレゼンスを再び高めていく必要がある。

標準化の意味とは

では、そもそも標準化とはいったい何の意味があるのか。
標準を定めるそもそもの目的として、互換性を維持することや、部品の調達の低コスト化、市場の普及・拡大が挙げられる。
また、当然その標準を取得すれば、市場で他社より有利に展開でき、売り上げを伸ばすことができる。
さらには、使用する企業から特許の使用料を得ることができる場合もある。

実際にDVD関連の特許を管理・保有する団体であるDVD6Cの年間ロイヤリティ収入は年間10億ドル以上あると推測されている。
また、機能面は優れているにも関わらず世界での競争力がない日本の携帯電話についても、競争力の欠如は世界の標準と乖離していることが原因であるとし、標準化への取り組みの失敗を指摘する声が多い。

あり方が変化したIT分野における標準化

近年、IT分野のあり方の変化に伴い、IT分野における標準化は大きく変化した。
少し前までのITとは、ITそのものがコアとなる技術であり、そのようなコアとなる技術については国際標準化機関で1国1票の投票により標準が定められてきた。
しかしながら、IT分野の技術の急速な発展とコモディティ化により、国際標準化機関だけで扱うことができなくなってきた。
それとともに、市場で大きなシェアを占めた規格がそのまま事実上の標準であるデファクトスダンダードとなる例が多く出現した。
インターネットのTCP/IPやパソコンのOSにおけるWindowsがその最たる例である。

また、国際標準化機関が扱ってきたコアとなる部分だけでなく、ブラウザやコンテンツなどアプリケーションレイヤに位置する標準が重要となった。
それらの多くは関係する企業や団体などで構成される民間のフォーラムにより策定されるフォーラム標準であり、現在の市場では重要な位置を占めている。
前述したDVDや今普及フェーズにあるBlu-ray Discは民間のフォーラムにより標準が策定された例である。
また、アプリケーションレイヤに相当するクラウドやデジタルサイネージといった新たな分野では、フォーラム主導で標準化が進められている。

さらに、この変化に応じて、国の政策も遅ればせながら変わりつつある。
現在、EUではICT分野における標準化戦略の見直しが進められている(参考)。
EUは、もともと国際標準化機関で定めるデジュール標準については、1国1票の投票制であるため、EUの構成国による数の力で優位にあった。
加えて、フォーラム標準を重要視し、e-Identityやe-Healthといったアプリケーション層における標準を支援する戦略を進めつつある。
2010年5月に発表した、2020年までのEUのデジタル戦略を示すDigital Agenda for
Europe
では、ソフトウェアやITサービスに関連するフォーラム標準の利用促進のための法律の改定がアクションプランとして掲げられている。
また、日本においても、これまでのITU等の国際標準化機関にのみ対応していた支援体制の見直しが検討され、クラウドやデジタルサイネージなどのフォーラムが主戦場となる技術についても支援が始められている。

標準化分野の見定めが必要

今、IT分野における標準化のあり方が大きく変わり、標準化に対する政策も変わりつつある。
そのような状況で、日本企業は標準化の重要性を再認識した上で、変わり行く標準化に対応する必要があるだろう。
その際には、標準化が有効である分野を見極めること(標準化が意味を成さない分野もある)、そして、どのフォーラムもしくはどのデジュール機関に何を持っていくのかを慎重に判断する必要がある。
また、フォーラムのような、個々のステークホルダーが投票権を持つ標準化の場では、海外の企業とも協力して、共同で自社に有利なものとなるようにする交渉力が一層重要となる。
そのような標準化活動において活躍できる人材の育成は、日本企業の欧米に比べ遅れている面でもある。