新しいゲームの始まり

ゲームは日本のお家芸

アーケードゲーム、家庭用ゲーム、携帯型ゲームは日本が世界シェアを独占する「お家芸」の分野である。家庭用ゲーム機では任天堂のファミコンシリーズ、Wii、ソニーのプレイステーションシリーズが次々と世界中のリビングに浸透していった。また、ニンテンドーDSシリーズはもっとも多く販売された携帯型ゲーム機である。

携帯型ゲーム機はケータイ、iPhone、スマートフォンなどのよりカジュアルなゲームに侵食されつつある。しかし、現状ではこれらの新勢力が携帯型ゲーム機を駆逐しているというよりは、よりカジュアルなゲーマーを増やしていると理解したほうがいいだろう。これらに対抗するように、ニンテンドーは3DSを2011年2月26日に発売する予定である。今流行の3Dを取り込んで他社を一気に振り切ろうという作戦である。

家庭用ゲーム機でもソニーはPlayStation Moveを導入し、これまでにないゲームインターフェースを取り入れて差別化を図ろうとしている。

ただ、これらの次世代機はあくまでもこれまでの路線を踏襲して、それにプラスアルファの機能を付け足しているだけである。ゲーム業界に浸透しつつあるもうひとつの勢力に対抗するには、もう一工夫必要である。

ソーシャルゲームの台頭

欧米では主にfacebook、日本ではmixiなどのSNSに付帯するゲームアプリをソーシャルゲームと呼んでいるが、最近これがゲーム分野でもっともユーザ数を伸ばしていると言われている。モバゲータウンGREEなどはSNSというよりは、ソーシャルゲームサイトの性格のほうが強い。

しかし、サンシャイン牧場(mixi)Farmville(facebook)、怪盗ロワイヤル(モバゲータウン)などのソーシャルゲームはこれまで家庭用ゲーム機や携帯型ゲーム機で開発されてきたゲームに比べると、驚くほど単機能でグラフィックスや音響のレベルもかなり低い。なぜこれらのゲームが、はるかに品質、機能に優れた既存ゲームを押しのけて台頭してきているのだろうか。要因はいくつか考えられる。

まず1つは、ゲームに友人同士のつながりをうまく結びつけたことである。家庭用ゲーム機や携帯型ゲーム機でもネット連携は図られていたが、SNSのブログ、メール、メッセージなどの機能と結びつけることにより、緩やかな連帯感を持たせることが出来、各々がそれぞれのペースでゲームに参加できる。それぞれが対戦するだけでなく、助け合いながらプレイできる。

既存のゲームと大きく違うのは、多くのソーシャルゲームは無料で提供されていることである。無料であることでユーザを増やし、より深くプレイするユーザのために課金して優遇されたサービスを提供するのである。フリービジネスを展開しやすいプラットフォームであると言えよう。

また、多くのゲームはPC、ケータイ、スマートフォン向けに開発されており、ユビキタスなプレイ環境を構築していることが挙げられる。このことにより、どこにいてもカジュアルに遊ぶことができるようになった。プレイスタイルが低頻度・長時間・集中型から高頻度・短時間・お気楽型に変化している。

そして多くのゲームはシステムやコンテンツがユーザの要望やゲームバランスを考慮して、常に改良、拡張されていることが挙げられる。コミュニティサイトからの意見・要望をうまく取り入れることにより、ゲームを熟成していくのである。

最後に、クラウド技術との親和性が高いことも挙げられる。小さなシステム規模で新たなゲームを開始することが出来るので参入障壁が低く、ゲーム規模に応じて後からシステムを拡張することが出来る。また、ゲームの負荷に応じて動的にシステムリソースを増減できる。

迎え撃つは

それではこれからのゲームはみな、ソーシャルゲームになってしまうのか。恐らく既存のゲームは生き残れるだろう。しかし、ソーシャルゲームが提示した新たなゲームの楽しみ方を取り入れなければ、ハードウェアと密着した日本が得意とするゲーム分野は縮小を余儀なくされるだろう。ゲーム機の開発サイクルは4,5年と長いため急激な方向転換は難しいが、専用ハードウェアを用いたリッチなプレイ環境、プレイエクスピリエンスとソーシャルゲームの利点を融合させる必要がある。

低年齢層も視野に入れればまだ当分既存のパッケージ型販売は続けるのであろうが、PSP goで試行したダウンロード型販売を推進し、さらにはゲームシステムそのものをネットワークから提供すべきであろう。そのほうがクラウド技術との親和性が高く、ゲームソフトウェアのサードパーティの参入障壁も小さくなる。そして課金体系も現在多く出回っている無料体験版ゲームではなく、フリービジネスを取り入れたい。システムプラットフォームをPCやケータイに開放してどこからでもプレイできるが、ゲーム機上でプレイすることでより機能やサービスが向上できるようになっていても面白い。このほうがユーザコミュニティを増やすのには好都合である。

そんなことを考えていたら、大手電機メーカーが同じことを考えていたようで、クラウド型携帯ゲーム機のコンセプトサイトが公開されていた。音楽、映像、紙メディアなど、パラダイムシフトを強要されている業界にゲーム業界も仲間入りしようとしている。これからもゲームが日本のお家芸であり続けるためにも、国内メーカーの奮起に期待したい。