クラウド破産時代のホスティングサービス選び

企業の情報システムなどをクラウドサービスに移行しようという動きが盛んになっている。クラウドサービスを使う利点は数多くあるが、料金については必ず安くなるとは限らないので注意が必要である。今回は、筆者の体験も交えつつ、料金面でのクラウド利用の是非を考える。

クラウドの利点

クラウドサービスを利用する上での利点として、料金が安いということがよく言われてる。既存システムをクラウドに移行することにより、コストが大幅に削減できるといううたい文句がネット上でも散見される。しかし、クラウドサービスの利点はその他にもたくさんある。

例えば、クラウドにおけるセキュリティというと課題(リスク)ばかりが俎上にあがりがちだ。しかし、ENISA (European Network and Information Security Agency) が2009年11月に公表したクラウドに関するレポートによると、リスク分析をする前段で、クラウドサービスを採用する利点として、次のような項目を挙げている。

  • 大規模運営によりセキュリティにかけるリソースが大きいこと。拠点分散、ネットワーク品質、インシデント対応、その他脅威への対策など。
  • 市場での差別化を目的に、クラウドサービスプロバイダがセキュリティ強化に積極的なこと。
  • 標準化された管理インタフェース
  • リソースの自動スケーリング機能によりネット上の攻撃を一部限定できること。
  • 監査のための情報が収集しやすいこと。仮想マシンのイメージコピーなどの機能により、監査のためのサービス停止時間を減らせる。
  • セキュリティパッチなどが適用済みの仮想マシンをすぐに稼動できること。
  • SLAに基づく契約のため、それを満足するためにクラウドサービスプロバイダ自らセキュリティを強化する方向に向かうこと。
  • リソースの集中はセキュリティリスクを招く要因だが、管理が容易になってセキュリティ上の利点もある。

企業システムを移行する場合に、筆者が一番重要だと考えるのは、すぐにサービスを立ち上げられるという点である。簡単なホームページではなく、データベースを含めたWebアプリケーション環境がすぐに立ち上げられるという点は、企業の競争力を大幅に高めることが可能となるだろう。

クラウドでの課金

一方、料金面でのクラウドはどうだろう。喧伝されている通り、本当に安いのだろうか。

筆者はとあるプロトタイプを作成するために、約1ヶ月ほどマイクロソフトのWindows Azureを使ってみた。マイクロソフトの ASP.Net アプリケーションがクラウドでどの程度使えるのかを試すためであった。機能などの面ではまだまだ改善の余地があるものの、確かに従来オンプレミスで動いていた Windows 向けのアプリケーションをクラウド上で動かすフレームワークとしては良くできていると感じた。

ただし、料金については予想していたよりもかなり高価であった。それほどヘビーに使うつもりがなかったので、「導入特別プラン」というキャンペーンコースで使い始めた。実際にインスタンスを動かし始めたときに、インスタンスを動かすと課金対象となる旨の警告も表示されたが、インターネットからのアクセスもほとんどないので、月額千円くらいだろうと考えていた。ところが、実際に届いた月額費用は1万円を超えていた。

料金が高くなったポイントは、インスタンスを動かし続けたというところだ。サービスを立ち上げていると、アクセスがなくてもその分が時間単位で課金される。今回は特に、本番とステージングの2つのインスタンスを動かし続けたために、さらに2倍の課金となったわけだ。

Windows Azure に限らずクラウドサービスは、サービスを稼働させた時間や実際に使った通信量に応じて課金される仕組みである。短時間に大量の計算を並列で実行してすぐにインスタンスを止めてしまえば非常に安価に利用できるが、長期間サービスを提供する場合や極端に通信量が多い場合は、思わぬ金額が課金されるので注意が必要である。

国内でも2010年5月頃に、「クラウド破産」というキーワードが話題になった。個人の方が試しにクラウドを使ってみたら思わぬ金額が請求されたという事例だが、クラウドサービスが従量課金であり続ける限り、かつて携帯電話が従量課金であった時代の「パケ死」相当の出来事が、しばらくは続くことになるだろう。

クラウド利用が向いている企業システムとは

冒頭で説明したとおり、クラウドサービスの利点は料金面だけではない。年度末などに一時的に負荷の高まるサービスなどでは、リソースを動的に増減できる機能は非常にありがたい。また、利用者数の増加が予想しにくいインターネットサイトなどは、クラウド無しでは今後は立ち上げることもままならないかもしれない。

一方、そのようなクラウドの利点を生かし切れる企業システムは、実際にはどれほどあるのだろう。確かに稼働状況には増減はあるだろうが、例えば定常状態の2倍程度のピークしか見込めないサービスであれば、あえて柔軟性の高いクラウドを選ぶまでもないだろう。

最近では、VPS や KVM などを利用した安価な定額ホスティングサービスが増えてきている。企業システムのクラウドへの移行を検討する際には、通年での運用状況をよく検討して、従量課金のクラウドの利用が本当に適切なのかを判断する必要がある。