最近、はやぶさをはじめ人工衛星が注目されている。つい先日、みちびきが打ち上げられた。一方で近年の政府方針では、巨額の研究開発費用が必要な宇宙開発予算は削減方向にある。しかしながら、同じ人工衛星でも役割や重要性が異なるため、一律削減するのも問題だろう。今回は、先日打ち上げられたみちびきの役割から位置情報プラットフォームを考えてみたい。
米国GPSに頼り過ぎたシステム
GPSの受信チップが安価になったことで、携帯電話の端末に内蔵されるのが標準的になり、各社から位置情報を活用した様々なサービスが展開されている。GPSは米国軍事衛星を利用しているので、有事の際には衛星から提供されるコードに誤差を追加して精度を落とすことが知られている。また、米国のGPS用衛星の維持費は年間4億ドルと言われており、費用負担や極端な場合利用停止になる可能性もある。
そのため、米国の軍事技術に依存し続けたくないという意識も各国にあり、それぞれ開発が行なわれた。EUでは、欧州宇宙機関(ESA)がGalileo(ガリレオ)を始めて、4機を軌道に乗せているものの、総額約5000億円の予算が見積もられており、各国や民間企業の費用負担の重さから完全な運用は2014年と言われている。また、ロシアでは同じ目的のGLONASSをすでに21機を打ち上げて運用している。
一般に、衛星が増えるほど捕捉できる範囲が広がり、コードを送ることで精度が向上する。そのため、みちびきも精度向上につながると期待されているものの、衛星1機だけでは成り立たないため、あくまで補完する用途であり、米国GPS頼りなのは変わりない。米国GPSの運用費用に比べ、1機を打ち上げるだけで700億円以上の予算が投入されていることを考えるとコスト的には見合わないのも事実であるが、米国技術に依存しすぎないという方針を貫くのであれば、費用面に関しては妥協が必要だ。国内の関連産業に対する支援、国内技術の向上や計測精度向上などのメリットもある。
室内でもより詳細な位置を知るためには
一方では、スマートフォンや携帯電話等で位置情報を利用したサービスが広がるに連れて、位置情報がどのように取得できるのかということにはあまり意識がないようだ。複数の衛星から電波を受信して三角測量で計測するため、衛星の信号が届かない室内ではほぼ位置情報を取得できないことや最初に衛星から信号を捕捉するのに時間がかかることは忘れられている。また、精度についても、数十メートル程度のずれが発生している。精度を向上させる方法もいくつか考えられている。あらかじめ正確な位置がわかる座標で受信したデータを利用して計算する方式が採られている。
また、最近の携帯電話を含む各種端末は加速度センサやジャイロをつむことで、より細かい方向を知ることができるようになっているものの、GPSなしには絶対的な位置を知ることは難しい。室内サービスで必要な位置情報を知るためには何らかの工夫が必要だ。一つには、室内に複数のWiFiやRFIDなどの基地局を設置して、電波強度等から計算する方法もあり、各社からそのようなソリューション提案も盛んだ。しかしながら、機器や設置や調整にかかるコスト面から現状では普及しているとは言いがたい。
ところで、ロボット技術の中にSLAM(Simultaneous Localization And Mapping)という技術がある。自動的に周囲の環境を計測しながら、自分の位置を特定する方法がある。センサの情報とマーカーとなる情報があればモバイルARのようなカメラを使うサービスには有効だ。また、室内に入る時点で初期値の座標があれば、加速度センサの情報を積分していくことで、理論的には速度と位置を求められることになっているが、誤差が大きくなかなか難しいのが現状だ。そこで、店舗内でクーポンを受信できる場所にタッチする、入口でかざすなどの操作をしてもらうことで位置の初期値を与えることで誤差を補正することができる。
積分方式で位置情報を正確に計算するのは難しいが、一般に位置情報の変化を微分して速度や加速度を計算する方が精度が出やすい。活用事例を挙げると、モータースポーツの世界では、安価なGPSの受信情報の1秒間で数回程度記録して、各データを微分することで、簡易的に速度や加速度を求めることが流行っている。加速や減速Gや横Gを計算することができ、自分の運転方法が明確になる。
位置情報サービスは、各サービスともユーザの位置や状態を知ろうという努力が見られるものの、基本的にはGPSの情報が基準になっている。GPSから得られる情報には誤差が含まれることからもサービスに必要なレンジを考慮した位置情報プラットフォームやノウハウの提供が求められているのではないだろうか。