IMDの国際競争力ランキングによると、ここ1年で日本の国際競争力は17位から27位に下落しており、日本の状況がよい状況ではないことは事実だ。
こうした状況の中、次世代の人材を育成する教育のレベルについても、そのレベルは世界的に見て、ここ10年間で2位から15位に転落するなど、教育危機が叫ばれている。
そうしたなか、教育改革の一環として、デジタル教科書への取組が始まっている。今回は、その状況について見ていきたい。
教科書のデジタル化の動向
教科書会社のデジタル教科書づくりはすでに2005年ころから始まっており、既に一部の教科では市販されている。また、2011年度から実施される小学校の新学習指導要領に対応して、東京書籍や新興出版社啓林館が一部の科目で電子教科書の作成を予定している。 更には、原口総務大臣が昨年度に公表した「ICT維新ビジョン」の中で、 2015年までにデジタル教科書を小中学校の全生徒に配備することが謳われており、教科書のデジタル化は次第に加速しつつある。 こうしたデジタル教科書は、紙の教科書をデジタル化しただけで、 それで何のメリットがあるのかと思う方もいると思うが、現在の教科書改訂の頻度などを考慮に入れると、メリットはある。
現在、教科書は4年ごとに改定され、指導要領の見直しに伴う大幅改定は、10年ごととに行われる。しかし、4年間に世の中の状況が変わることもあり、記載されている内容が陳腐化することは少なくない。 教科書がデジタル化されれば、ある一定期間で、新しい事象などの情報を、一部、ダウンロードして書き換えることが可能となり、絶えず、最新の情報を教科書に盛り込むことが可能となる。 また、将来的には、指導要領の改訂に伴う教科書の書き換えなどが、紙の教科書から比べれば少ない負担で行えるようになるので、指導要領の改善をもっと短い期間で実施できる可能性も高くなる。 こうしたことは、教育制度と連動しなければ意味のないことであるが、長い目で見れば、これまでより、より柔軟な教育環境が構築される可能性が高まることは確かだ。
デジタル学習教材の活用
教科書のような制度面での拘束があるものと比較すると、学習教材は、より自由な発想で作成することが可能となる。 そういう点では、現時点では、デジタル学習教材の活用が、短期的には学校教育の質の向上に効果があるように思う。
最近の携帯端末の普及により、大人向けの学習教材は、語学や資格試験向けのものを中心に充実してきている。これらの学習教材の特徴は、リアルタイムで回答結果が分かるテストが盛り込まれていることや、ゲーム性を持たせた回答方法を盛り込むなど、紙の教材では実現できない、双方向性のある教材を提供していることで、ICT化のメリットを上手く活用したものになっている。
このような、ゲーム性のある教材を、学校教育用にして作成することは、生徒の自習向けの教材としては非常に多きな効果をもたらすと思われるが、このままでは、授業用の教材として効果はあまり期待はできない。 今後は、実際の授業の先生と生徒のコミュニケーションの中に、 デジタル学習教材をいかに上手く盛り込めるかが重要になるのではないか。
特に近年の教師の負担は非常に大きくなってきており、その負荷を軽減して、生徒へのサポートを増やす時間を如何に作り出せるかが重要である。 例えば、授業の中での小テストの採点を、デジタル学習教材を用いて、リアルタイムで生徒に示せれば、教師は、その採点に要していた時間を浮かせて、個々の生徒の学習時の様子などをより一層把握することが可能となる。 そこで、そのサポートとして、生徒の回答状況を過去のものまで遡って分かりやすく整理する機能を提供すれば、浮いた時間をより一層有効活用することが可能となる。 このように、デジタル化によって浮いた時間で教師が生徒のために何かをするときに、それを更にサポートできる機能を盛り込めば、教師にとってはより魅力的な教材になるであろう。
携帯端末の進化による新たな流れ
しかし、こういったことであれば、これまでもノートPCを使ってできたことであるが、それが、いまひとつ上手く浸透しなかった理由は、端末の起動の遅さと、アプリケーションのレスポンスの遅さ、 そして、インタフェースの分かりにくさが大きな要因であったと思う。 これらの要因は、子供たちが飽きずにアプリケーションを操作してくれるためには大きく影響するであろう。しかし、最近の携帯端末では、これらの欠点が大幅に改善されているので、ようやく、授業で使える端末環境が整ったと言える。
あとは、このインフラの上でベンダーが、既に述べたような、先生と生徒のコミュニケーションをより高めるデジタル学習教材やデジタル教科書を提供することと、教師がそれを使いこなすスキルを如何に身につけられるかが重要な鍵となるであろう。 場合によっては、教師の指導法が根本的に変わってしまい、教員養成課程のカリキュラムにも影響を及ぼすなど、短期的には解決できない問題も出てくるとは思うが、長い目で見れば、教育環境の改善に教科書や教材のデジタル化が貢献することを期待したい。