クラウド化予測

先日ソフトバンクの孫正義社長が新30年ビジョンを発表し、その中で30年後には無限大のストレージ、無限大のクラウド、超高速のネットワークが実現し、あらゆるものがクラウドと融合すると予測した。また、孫社長のみに留まらず、何年後かはさておきシステムは将来的にはすべてクラウドになる、といった主張もよく耳にする。Google社CEOより「クラウド・コンピューティング」
という表現が産みだされてからまだ4年である。この急速に広まった(一部ではバズワードと未だに言われもしている)キーワード「クラウド」は社会に急速に浸透しているのは確かではあるが、実際にこのままのペースで一気にクラウド化は進むのだろうか。

クラウド化の進展のアナロジーとしてよく言われているのが電力である。企業はかつて自社の工場内の発電設備により自家発電を行っており、それが企業の競争力の一つであった。それが巨大な発電所と電線が普及し、電力会社から電力供給を受けるほうが安価になり、自家発電は廃れてしまった。ITシステムも電力同様で、すべてクラウド、電力でいう発電所に変わるのではないかというストーリーである。電力の場合には電線というネットワークが重要な役割を担っていたが、クラウドの場合は通信ネットワークがこれに該当する。
通信ネットワークの技術がさらに進化すれば、いずれすべてクラウドに集約されるのではないか、というわけだ。
ITシステムと電力では質の違いがあるため、一概に電力のようにすべて集約されることはないだろう。しかし、リソースという点では同様の面もあり、いずれごく一部の部分を残してすべてクラウドに集約されるというのは、それがいつかという大問題を差し引いて考えれば、大いに考えられることだろう。

科学技術予測にみるクラウド

一体それが何年後なのかを考えるのに、ここでは科学技術予測から考えてみる。
科学技術予測は文部科学省科学技術政策研究所によりほぼ5年おきに実施されているもので、今年の6月に発表されたものが1971年の第1回から数えて第9回となる。科学技術予測では、幅広い分野の科学技術課題の実現年について、デルファイ法により専門家の予測が集約されている。第1回から第5回までの予測の実現状況も評価されており、2009年までに実現すると予測された技術の実現率は約7割と発表されている。
クラウドコンピューティングに関係するものとしては、以下のような課題が予測対象となっている。

科学技術未来予測

2020年には個人情報漏洩に対する信頼性を確保する技術やユビキタス環境が整備され、2022年に1Tbpsの超大容量通信技術、2023年にはより先進的な広域分散処理技術と1億台以上のコンピュータから障害を起こすことなく常に安定したサービスを構築する技術が社会的に実現されると予測されている。
これらの主にネットワークインフラに関連する技術群が実現すると予測されているのは、わずか13年先である。
これらの技術が実際に実現されたときには、現在のクラウドへの懸念事項は大方解消される。 1
週間以上無充電で動作可能な携帯PCやユビキタス環境も2023年には実現すると予測され、クラウド環境へのアクセス手段も含めて、30年後などと大きなことをいわずとも案外近い将来にクラウドを中心とした大変革が起こる可能性がある。

クラウドは新たなフェーズへ

実際にクラウドは今、新たなるフェーズへと移りつつある。
2009年以降、ハイブリッドクラウドやそのインタフェースの検討が企業や標準化団体を中心に活発に行われており、クラウド間の連携といった先進的な試みに焦点が当たってきている。
仮想化関連の管理標準や仮想マシンファイルの標準規格を策定してきたDMTF(Distributed Management Task Force)では2009年4月にOpen
Cloud Standards Incubator、2010年7月にCloud Management WorkGroup (CMWG)
が新たに立ち上げられ、OGF(Open Grid Forum) OCCI(Open Cloud Computing
Interface Working Group)
でもクラウドのインフラ部分のドラフト仕様が公開された。
日本においてもグローバルクラウド基盤連携技術フォーラムが立ち上がっている。
制度という面でも、有力な適用分野として考えられている医療分野では、2010年2月の法改正により患者の診療データを事実上クラウド上へ保存することが可能となるなど着実にクラウド化が進展している。

現在、ネットワーク分野の技術進歩のスピードは目覚しいものがあり、クラウド化は思っている以上に急速に進む下地ができつつある。
先の時代を捉えて、何をクラウドで試してみるか、というありきたりの視点ではなく、社内に残す必要があるものは何か、という視点で積極的にクラウドを捉えることも重要になってくるだろう。