企業主導型OSSの開発を安定させるには

OpenSSOの不遇とOpenAMの誕生

2010年1月にOracleによるSun
Microsystemsの買収が完了し、2月にシングルサインオンのOpenSSOプロジェクトが終了するなど、Sunが主導してきたオープンソースソフトウェア(OSS)に変化が出てきた。

OpenSSOは2008年にSunが公開したOSSであり、オープンソースのシングルサインオンソフトウェアとしては最も優れたOSSのひとつであった。しかし、Sunが得た外部からの貢献やOpenSSOを利用したビジネスの収入は期待に及ばなかったようであり、Oracleの経営陣は公開している意味が無いと判断されてしまった。

これは残念な出来事だが、一方でオープンソースだからこそできることも起こった。ForgeRockという元Sun社員らが立ち上げた企業がOpenSSOの開発を引き継いだのだ。彼らはOpenSSOのソースコードや関連ドキュメントを引き継ぎ、新たにOpenAMという名称で開発を継続していくこととなった。さらに日本でOpenSSOソリューションを提供していたオープンソース・ソリューション・テクノロジ(OSSTech)がOpenAMの開発に参加するとともに、日本でのコミュニティも立ち上げようとしている。商用ソフトウェアであれば権利を買い取るために莫大な金額が必要となり、きっと引き継ぐ企業は現れなかっただろう。

OpenSSOはSunの多大な支援によって優れたソフトウェアに成長してきたが、一方で開発の方向性はSunの意向に影響されてきた。OpenAMもForgeRockやOSSTechの影響はあるが、企業規模等を勘案すれば彼らだけでこれまでと同レベルの開発・サポート・プロモーションをすることは難しいと考えられ、より民主的なコミュニティになることが期待できよう。結果として「災い転じて福」となることを願いたい。

OpenOffice.orgへも影響

SunがOracleに買収された影響はOpenOffice.orgにも現れている。Oracleからはまだ明確な方針は示されず、ハンブルグの開発体制には目に見えた変化はないが、日本語プロジェクトで大きな役割を担っていたSunのメンバーが異動でプロジェクトから外れるなど、OpenOffice.orgの市場がまだ小さい日本への投資は抑えようとしているように見受けられる(日本語プロジェクトでは日本語への翻訳や日本語版の品質保証、ドキュメント作成等を行っている)。

一方で前回も書いたように、日本でのOpenOffice.orgの採用企業・自治体は徐々に拡大してきている。企業での利用を考えれば品質保証や翻訳といった作業は着実に行われなくてはならないが、フルタイムの社員の離脱は日本語プロジェクトの運営に打撃を与えており、セキュリティ対策の遅れなど企業での利用にも影響を与えかねない。

この難関を乗り越えるにはOpenAMのようにSunだけに頼らない体制を構築していく必要がある。OpenOffice.orgをビジネスにしている企業はプロジェクトへの貢献を積極的に行ないたい(グッデイやアシストは既に数人ずつ社員を投入している)。ビジネスをしている以上、商材(OpenOffice.org)に投資するのはごく当たり前のことである。

また、OpenOffce.orgはOpenSSOと違い、エンドユーザ向けのソフトウェアである。ユーザ企業としてもバグ報告、機能拡張要望、翻訳の手伝い、ドキュメント執筆等、協力できるところはたくさんある。決して大きな投資をする必要はない。会津若松市が行っているようにOpenOffice.orgへの移行で浮いたコストのごく一部を還元してはどうだろうか。各社は少しずつでも塵も積もれば山となる。たとえば翻訳では協力した結果が次のバージョンに反映される。協力の結果、改良が進むのであれば貢献のしがいもあるだろう。

企業主導OSSのあり方

今回はOracleによるSun買収の影響を例に取り、大企業主導のOSSプロジェクトも安泰ではないことを見てきた。この動向を見て「OSSは不安定だから不安だ」と考えてしまうのは短絡的である。商用ソフトウェアも買収や倒産によって開発が打ち切られることは日常茶飯事だ。むしろ「ソースコードごと別の企業に開発が引き継がれた」という事実に着目すべきだということを強調しておきたい。

OSSなら開発が持続するイメージ図

とはいえOSSが開発を主導する企業の方針に振り回されたのも事実である。一企業の方が集中して開発が進められるというメリットがあるものの、ある程度成熟したらよりオープンな共同開発型のコミュニティに移行していくことが、安定性の面からは好ましそうだ。開発元にしても、「とてもおいしいビジネス」でなければ開発・運営負荷を下げることであり悪い話ではあるまい。Oracleのように突然投げ出すとOSS関係者から不評を買うだけでなく、一般ユーザからも「この会社のOSSは利用しない方がいい」という風評が起こる可能性もある。OSSに取り組み始めるのは簡単だが、万が一うまく行かなかったときには、どのように撤退するのかしっかりと考えてから撤退に移りたい。