廃れゆくIT技術のロングテール現象

IT技術の盛衰サイクルはとてもめまぐるしい。かつてはドッグイヤーとも言われていたが、今や半年先ですら何が起こるか予測しがたい。今回は、廃れてゆくIT技術について考えてみる。

IE6 廃止キャンペーン

Windows XP の標準ブラウザであったInternet Explorer
6(IE6)の利用を止めるキャンペーンが続いている。民間企業が提供するサービスでは、以前から新しいブラウザへの移行を促していたが、今年に入ってからは各国の政府機関からも移行を促すメッセージが発信されている。日本でも、内閣官房情報セキュリティセンター(NISC)が2010年6月17日に、府省庁で使用するWebブラウザをIE6から最新版のWebブラウザに移行するように指示を出している。

民間企業のサービスにおけるIE6の廃止は、主にサポートコストの問題であった。標準化されているはずのHTMLではあるが、ブラウザによって見え方が異なる。特にIE6は独自仕様や他のWebブラウザとは動作が異なる部分も多く、他のWebブラウザと同じようにIE6でも表示しようと思うと、専用のHTMLコードを書く必要があり、さらには動作確認をしなければならない。特に最近のWebページはユーザビリティ向上のためにJavascriptが多用されるが、IE6で動くように作られたJavascriptプログラムが、他のWebブラウザでは動作しないケースが多い。Webサイトを構築する上で、IE6をサポートするのは、とても負担が大きい。

一方、各国の政府機関が発しているメッセージは、セキュリティの問題である。IE6
は製品としてはサポートが終了しており、今はセキュリティパッチのみが提供されている。フィッシング対策機能など、最新のブラウザでサポートされている機能などはなく、今後も機能追加は望めない。特に、昨年末から今年初めにかけて、IE6
の脆弱性を悪用したサイバー攻撃が猛威をふるったことも影響が大きい。

なぜIE6が残り続けるのか

実は、IE6の製造元であるマイクロソフト社も、、IE8への移行を推奨している。サポートを終了していることに加えて、セキュリティ上の問題を挙げていることも、他の民間企業や政府機関と同じ考え方である。

一般消費者であれば、IE6をやめて最新のWebブラウザに移行することはあまり難しくない。インターネット上の多くのWebサイトでは最新のWebブラウザに対応しているため、今すぐに
IE6 の利用をやめて IE8 などにバージョンアップもできるし、Firefox
などの他のブラウザを並行して使うこともできるだろう。

問題は、IE6でしか動作しないイントラネット内の企業システムの存在である。作られた当時は、Webブラウザを使った汎用性の高いアプリケーションと見られていたが、実は
IE6
でしか動作しないことが後になって判明したのだ。これはブラウザとしてのIE6の独自仕様という面もあるが、多くのケースではプラグインなどの機能拡張部分への依存性の問題である。

Webブラウザからアプリケーションを使う場合、純粋に Web
ブラウザの標準機能だけを使ったもの(たとえばAjaxなど)は、新しいWebブラウザへの移行が比較的容易である。一方、プラグインを使った場合には、それらがどの範囲までサポートされるかが鍵を握る。よくあるケースでは、プラグインのバージョンが上がる際に、IE6
へのサポートが打ち切られるとともに、サーバ側のソフトのバージョンアップも要求されることがある。こうなると、新しいプラグインを新しいブラウザで使うために、サーバ側ソフトもバージョンアップすることになり、その移行作業はコスト的にも負担である。昨今のIT投資が削減される中、企業はIE6を使い続けるという苦渋の選択を余儀なくされるのである。

IT技術のロングテール現象

上述したような IE6
の問題は、IT世界の移り変わりの早さを表しているほんの一部に過ぎない。Webブラウザの世界だけでも、各ソフトのシェアは刻々と変化しているし、iPhone,
iPad などでシェアを獲得しつつある
Apple社の戦略から、RIA(リッチ・インターネット・アプリケーション)の不動の地位を占めたと思われた Adobe社の Flash
も雲行きが怪しくなってきた。

一方、企業におけるITの導入はほぼひと段落を迎えたという状況だろう。企業システムの新規開発は減少し、今後のIT投資の多くは、既存システムのリプレースにともなう機能追加が主なものになることが予想される。このような状況で、IT技術の早い流れにキャッチアップするのは至難の業だろう。お客様向けのサービスであれば必要に駆られて幅広いIT環境をサポートするが、IT環境が統制可能な社内であれば、古いシステムをできるだけ長く使い続けることで、コスト面で有利になるケースが多い。

こうして、企業システムの周辺には、使用期限を迎えつつある技術が細々と生き続けることになる。多くの企業システムが新しいIT技術へ移行する中で、費用対効果などの理由から移行できずに古い技術の尻尾を引きずることになる。商品販売などにおけるロングテールとは異なる意味だが、文字通り長い尻尾をもてあますことになる。

ロングテールを侮ってはいけない。少数の積み重ねが大きなインパクトを持ちうることは、すでに証明済みだ。企業はこうした問題への対策として、自社で使っているそれらの技術を使用期限とともにリストアップし、事業継続上のリスクとして真剣に取り組まなければならない。そして、廃れゆく技術をどのタイミングで断ち切るかを、事業計画に明確に盛り込むべきだろう。

クラウド基盤採用に対する警鐘

企業のIT投資の中で、現時点で活気があるのが環境対策とクラウドだろう。特にクラウドは、コスト削減の効果も期待できるため、パブリック/プライベートの違いこそあれ、多くの企業システムが移行可能性を探っている。

しかし、クラウド技術はいまだ黎明期であるため、特に各サービス間の互換性が課題である。異なる企業間での互換性のなさもさることながら、同一企業のサービスにおいても、バージョンの違いからくる互換性の問題も指摘されている。

クラウド上に企業システムを構築する場合に、このバージョンの違いを吸収できることが望ましいが、黎明期であるが故、今作っているアプリケーションが使用している
API が、いつまでサポートされるかは判然としないだろう。

クラウド基盤のバージョンアップに適切なタイミングで追従できるように、企業アプリケーション自体も頻繁にバージョンアップしてゆく覚悟がないと、IE6
問題と同じような禍根をクラウド基盤が生み出す可能性が大いにある。