電子書籍市場の育成を望む!を記載してから、はや6年が経過した。当時(2004年頃)ソニー、松下電器産業が電子書籍端末とコンテンツの流通経路を用意し、一気に盛り上がるかにみえた電子書籍は、蓋をあけてみると、コンテンツが十分集まらない上、期限付きの貸本スタイルで普及せず、両社とも事業を終了したという経緯がある。しかし、ここにきて、米国で発売されたアマゾンのキンドル、アップルのiPadと、俄かに電子書籍が活発化てきた感がある。iPadは、必ずしも電子書籍専用端末ではないが、電子書籍という視点で考えてみる。
普及のために
日本でも、「著作者の利益・権利を確保すること」「読者の利便性に資すること」「紙とデジタルの連動・共存」の3つの理念を柱として今年2月に、出版社31社からなる日本電子書籍出版社協会が発足した。米国でのキンドルの成功やiPadの話題が先行するが、日本の電子書籍もようやく”再”スタートラインに立ったというところか。日本では、携帯小説などのはやりはみられるが、専用端末で読める電子書籍は非常に数が限られるというのが大きな課題である。
2004年頃の国内の電子書籍端末が出た頃と比べ、今は何が違うのか?出版不況と呼ばれ、紙の本が売れなくなってきた反面、携帯小説・携帯コミックなどの電子的なコンテンツの市場は確実に伸びてきている。これらとともに、携帯電話や携帯音楽プレーヤー向けにネットでコンテンツを買うというスタイルも定着してきた。加えて、先のキンドル、iPadの話題もあり、ようやく出版業界も電子書籍を紙の本の市場を阻害するものではなく、新たなビジネスチャンスと捉えてきた、ということだろう。
キンドルと、キンドルに先行したソニーのLIBRIeとの相違は、製品の機能的には3G通信を内蔵しているかどうかくらいであるが、iPadは、UIも含めて書籍専用端末とは一線を画する。しかし、電子書籍という観点でみると、日本における電子書籍普及の鍵は、ゆうまでもなく端末でなくコンテンツの充実である。現在ある携帯電話向けコンテンツは別として、 一般の紙の本の消費者にしてみれば、新刊本のほとんどが電子書籍で入手できるようになって、はじめて電子書籍が魅力的なものとなろう。
ロングテイルとメディアミックス
アマゾンに代表される電子コマース市場が、多種少量の消費者のニーズを掘り起こし、ロングテイルと呼ばれた。電子書籍が完全に普及すれば、同様の現象が再現されるものと思われる。特にはじめから紙を介さない電子書籍専用コンテンツであれば、 目利きとしての出版社の存在はかかせないものの、出版も流通も、敷居は紙のものより低くなるはずであり、この点において、ロングテイルが促進されるものと思われる。しかも、裾野は、新刊本にとどまらず、Eラーニング的機能が使える教材など、多種多様な分野に広がることも想像できる。教科書に関しては、全国すべての小中学校に1人1台のタブレットPCやインターネット端末を導入し、授業でデジタル教科書を利用できる教育環境の実現を目指し、 課題整理、政策提言、ハードウエア・ソフトウエアの開発、実証実験を行うことを目的とした「デジタル教科書協議会」の設立準備が進められているが、将来的にこのような教材コンテンツが出てくることも予想される。
カラーのiPadならではの動きとして、電子雑誌有料配信サービスMAGASTOREなどのサービスがある。 しかも、これに向けて、書店で雑誌をチラよみするようなサービスも提供される。また、新聞も産経新聞に続いて、日経新聞も電子化されている。これらは、これまでの日本の電子書籍の歴史からみれば、大いなる進展である。 メディアミックスという意味では、例えば、3G機能内蔵の端末による電子カタログショッピングや、さらにGIS機能を内包した旅行ガイドなども典型的な例となろう。
再度の期待
書籍に先行する携帯音楽プレーヤーの普及やブラウザで文字を読むことが半ば常態化したこと、日本の住宅事情を考えてみても、電子書籍の普及は時代の要請であろう。流通経路(再販制度と電子書籍)、著作権の維持管理、フォーマット等、課題はいろいろあるが、電子書籍は出版業界にとっては、大いなるビジネスチャンスである、つまり、消費者の利便性を考えれば、これまでの紙の本とは異なる市場が、十分に考えられる。繰り返しになるが、そこで必要なのは、コンテンツの総量である。電子であっても、ニッチな専門店より、やはり、品揃え豊富な大型書店に人は集まるのである。ぜひとも、2004年の轍は踏まないで頂きたい。