映像通信技術を活かす次の一手は何か

筆者が専門とする分野の1つが動画像処理であり、本コラムでも、いくつか関連する記事を書いてきた。 振り返ると、2003年10月28日には「カメラ時代は来るか」というタイトルで技術的な課題について指摘している。 筆者の記事ではないが、最近(2010年5月11日)の記事「Natalが導く姿勢推定技術の未来」ではその回答を提示しており、 両記事を読み比べてみると面白いだろう。

ところで、これらの記事では映像技術をユーザインタフェースに応用するものを扱っている。 本稿では、映像通信のアプリケーションに関する課題を取り上げる。

映像配信の帯域は十分

メールやブログのようなテキストデータは言うに及ばす、画像や音声データと比較しても、映像データはかなりの通信量を伴う。 しかし今では光回線も普及し、家庭をつなぐ足回りまで帯域は太くなった。 それらの技術革新により、映像データを流す下地は多くの地域で整ってきた。 今ではYouTubeニコニコ動画など、インターネット上での動画配信サイトは当たり前のサービスとして認知されている。 情報家電・デジタルTVを対象としたアクトビラのように、動画配信サービスが通信と放送の垣根を取り払おうとしている動きもある。

携帯電話を用いたTV電話は苦戦しているようだが (携帯電話によるTV電話は構造上の課題があると筆者は考えているが、話が逸れるので、ここではその話題には触れない)、 TV会議システムは多くの企業で普及しており、Skypeなどインターネットを介したTV電話コミュニケーションも しばしば活用されている。 また映像配信環境自体も整備が進んでおり、Ustream携帯電話回線を利用した映像中継システムなど、 各種の技術が実用化されてきている。 事業仕分けの様子がインターネット中継されたことなども、記憶に新しいところだろう。

しかしリテラシが育っていない?

YouTubeやニコニコ動画のような動画投稿サイトが持つ本来の趣旨は、 ブログのように消費者自身が作成した動画作品を核としたコミュニケーションである。 著作権を無視した違法なデータの投稿はともかくとしても、投稿する作品数の多さ、母集団の大きさから、 なかには目を惹くような素晴らしい作品の投稿を目にすることもしばしばある。 いわゆるCGM(Consumer Generated Media)といわれる作品の製作過程であり、 前世紀であれば一部の趣味人によるコミュニケーションで閉じていた世界がITで花開いた例として、たいへん興味深い。

ところがこれにリアルタイム性が求められると状況は一転する。 つまり生放送、生中継を魅力的に実現する技術である。 リアルタイムで通信、配信する映像の作成技術に関してはマスメディアに一日の長があり、 未だに素人芸がプロには及ばない世界だ。

TV会議やイベントの放送を垂れ流すだけの中継のように、定型の映像通信であればまだ問題は無い。 しかし少しでも気の利いたことをやろうとすると、まだ解決すべき課題も多いことに気付く。 これは映像配信だけでなく、Podcastのような音声通信でも同様だ。 リアルタイムに面白いことを伝える技術は訓練が必要で、技術が先行しただけでは簡単に補うことはできない。

また映像中継にしても然り。 せっかく簡単に映像を中継できる技術が育ってきているのだから、マスメディアのコスト削減だけに利用されているのはもったいない。 ロシア発、18歳の学生が生んだサービスで現代のアメリカンドリームとして話題になったChatrouletteも、最近ではひどい有様になっている。 不埒な男性による露出中継が多くを占め、無政府状態だとそこに収束していくか、という印象を受ける。

映像通信の可能性を最大限に活かすキラーコンテンツに期待

本稿で述べたように、映像通信技術は既に成熟しつつある。 しかしソフトウェアに目を向けると、その技術を用いて何を流すのかは、まだまだ未開拓の地が広がっているようだ。 筆者は、あっと驚くキラーコンテンツがそろそろ登場してくるのではないかと予想している。 昔からTV電話のキラーコンテンツは「孫バカ」コンテンツだろうと噂されてきたが、それが実現するには情報機器の取扱いに慣れない層でも簡単に利用できるようなユーザインタフェースの工夫や、プライバシー問題への配慮も不可欠だろう。

先も述べたようにビデオ会議・TV会議には昔から根強いニーズがある。 古くはCU See Meに始まったインターネットビデオ中継もずいぶん様変わりし、最近ではSkypeの新機能、Group Video Callingが楽しみなところ。 筆者らも可能であれば仕掛け人側に回りたいと画策しているが、皆の発想力にも大きな期待を寄せている。