運動や食事といった生活履歴を記録するサービスが盛んになっている。中でも食事履歴に含まれる情報は多い。今回は食事履歴を基づいた健康支援サービスについて考える。
食事記録の効果
「3日前に食べたものを覚えていますか?」よほど健康に気を使っている人でなければ、思い出すことは容易でないであろう。食事内容を記録することによる効果は多岐に渡る。記録することで自然と健康的な食生活が習慣づけられ体重が適正レベルになる、という。レコーディングダイエットの効果が1つである。体の不調がある場合、食生活での要因を発見しやすくなる効果もあり、メタボ予防にも有効である。物事に対するやる気を増進させる効果もあり、うつ病治療としても取り入れられている。
享受できる多様なサービス
既存の食事管理サービスも増加し、サービスの質も徐々に高まってきている。Eatsmartのイースマノートでは、体重、運動、食事履歴を残すと日々の摂取カロリーや食事の偏りを見るグラフで見ることができ、体型と消費カロリーに対して「食べすぎ」「少なすぎ」と摂取カロリー量を自動判定してくれる。その他Yahooビューティー等でも類似サービスを行っている。
サービスレベルには至っていないものの、技術的には、栄養バランスに基づいた食事アドバイスを受ける、自分の好みに合ったレシピの推薦をうけることも可能である。東京工業大学大学院藤井敦研究室では、食事記録から栄養バランスを考慮してレシピを推薦する食生活支援システムに関する研究を行っている。当該研究では一般的な栄養のバランスを良くなるようなレシピを推薦しているが、実際には、「にんじんは食べられない」「ダイエット中なので野菜を多くしたい」等、個人の目的・嗜好により目的変数や制約を考慮したレシピの推薦も検討の余地もある。
サービスによっては、自分の食事日記を見られるだけでなく、他の人が昨日の夕飯に何を食べていたか、記念日には何を食べていたかもみることができ、おいしそうと思ってまねをすれば、食卓のバリエーションも増える。その際にはレシピの情報も見ること見ることができると良い。更に、料理初心者にとっては、複数レシピを作るときの段取りを提示してくれるとなお嬉しい。食事履歴から展開されるサービスの夢は広がる。
入力負荷がネック
一方、現状の食事管理サービスでは、入力の負荷に対して収集したデータを十分に活用したサービスを提供できているとはまだまだ言い難い。食事データは非常にバリエーションが多く、データへの意味付けもしづらいことも、データ収集・解析のボトルネックとなっている。
技術的な課題の1つはユーザの入力負荷を極力軽減することである。既存の食事記録サービスではレシピ検索機能を利用して選択肢の中から食べたレシピを選ぶ場合が多いが、定食メニュー等を食べた場合、お皿も多くぴったりの選択肢が無い場合もあり、食事内容を正確に記録することはなかなか難しい。
継続的に入力してもらうためには入力負荷が少なく見た目にも楽しいインターフェースが求められる。東京大学相澤研究室で提供している食事管理サービスFoodLogでは、Flickrで食事画像をアップロードすると、画像認識により主食・主菜・副菜を自動判別し食事バランスガイドに基づいた食事バランスを表示してくれる。カレンダー機能から毎日の食事を見ることもでき、テキスト入力と比較して視覚的なエンタテイメント性もある。そのためユーザは楽しみながら入力が可能であり継続的な利用が期待できる。Wii Fitのようなデバイスを用いて、ゲーム性をもたせることも、継続的な入力には重要であろう。
第2の課題は、バリエーションの多い食事データをより概念的に扱い、「中華の次の日は和食が食卓に並ぶ」「土曜の昼は工数の少ない簡単な料理が好まれる」等、食事傾向を把握やすくすることである。そのためには、「八宝–中華」「肉じゃが—和食」「焼きそば–工数5–簡単な料理」といった、レシピに意味づけを行うためのレシピシソーラスの構築が必要となるであろう。
更なる課題は課金システム
既存の食事管理サービスでは、ユーザから課金するケースは少なく、広告収入が主である。しかし、経済産業省の調査によると、2010年2月の広告売上高は前年同月の98.9%と広告市場規模は減少傾向にあり、広告収入モデル以外の第2の収益構造の確立が望まれる。
第2の収益構造の候補として考えられるのは、1つ目はユーザからの課金である。食事アドバイスの提示やレシピのリコメンド等、提供サービスの付加価値を上げることができれば、一部サービスは課金にする等により、ユーザからのお金の流れを作ることも考えられる。
2つ目は収集したデータを他の企業が別サービスやマーケティングデータとして利用である。食品メーカ等の販促費用を取り込むことができれば、ビジネス規模は大幅に大きくなる。しかし、この場合ユーザに事前にデータの別目的での利用の承諾をとっておく必要があり、更に、個人が特定されないこと(匿名性)を保障する必要がある。この問題は匿名化技術により匿名性の保障が可能であると考えられる。
新たな収益モデルの確立が、食事履歴に基づいた健康支援サービスの今後の展開のキーになることは間違いない。
サービスの慣用性も重要
サービスを利用する人が増え継続的に利用してくれれば収益性も上がる。実際の食事傾向を把握し目的に沿った正しいアドバイスを提示することも重要である。しかし、時には感情や状況も考慮した甘目のアドバイスを提示したり、1週間入力をサボってしまってもそれまでの食事傾向やその日の予定・他人の入力等から食事内容を推定するといった、サービスの寛容性も継続的な利用のためには重要になってくるであろう。