位置情報ベース広告のジレンマ

携帯電話への位置情報ベース広告(Location-based
Advertising、以下いちLBAと記す)周辺の動きが慌ただしい。Google社が企業買収、広範な特許の確保を進め、Apple社も企業買収、アプリからの位置情報ベースの広告を禁止、モバイル向け広告プラットフォームiAdの公開、と動いている。こうした巨人の動きがこの分野に大きな影響を与えることは間違いない。しかし、LBAはまだこれからの分野である。

はやりに載せて結果を出すLBA

LBAの最近の注目事例としては、はやりのfoursquareがファッション業界のMarc
Jacobsと提携したプロモーション
が挙げられる。foursquareは、いまどこにいるかを伝えることにゲーム性を持たせ、Twitterの後継として人気を博しているサービスである。このプロモーションは、NYファッションウィークの際にMarc
Jacobsの路面店に来たことを、foursquareで登録した人に抽選で舞台裏に招待する、というものだ。位置情報ベースのSNSであるbrightkiteも、位置情報ベースのARの代表格であるLayerと組み合わせて広告を出している

実際に効果がでるのか?そもそも携帯に広告は邪魔なのでは?という昔からある疑問はそう簡単に消えないだろうが、最近ではマクドナルドの例がある。NAVTEQ社が出したプレスリリースによると、Nokia社の地図サービスであるNokia
Ovi
Map上にマクドナルドのそばに来た際に『チーズバーガー、1ユーロ』というプロモーションを出したところ、7%のクリック率に達したという。一般にWebのバナー広告のクリック率は1%満たないとされる。ちなみに場所はNokia社のおひざ元フィンランドで、マクドナルド82店舗に対して行われた。

LBAに順応を求める新技術

LBAをさらに進化させるにはどうすれば良いのか。精度だろうか。

例えば、携帯電話の基地局に残る情報から、人の行動パターンと位置の93%は推論できるとされる。同様に無線LANのアクセスポイントと位置をひもづけた情報を使えば、90%以上の精度で推論できるとされる。精度の高さと、自分を含め人が意外と単純な動きをしているらしいことに驚く。さらに個人の好みに関する情報を収集すれば、かなり精度の高いLBAになりそうである。

しかし、個人にぴったりな広告を出せれば良いのかというと、そうとも一概に言えないところにジレンマがある。LBAの精度を高めると情報の配信先が少なくなってしまうという問題がまず一つある。もう一つは、LBAを含む位置情報サービスの事業者も個人を特定でき、プライバシーを侵害しうるという問題である。後者はEUの研究ファンドのプロジェクトであるMODAP(Mobility, Data Mining and
Privacy)などで研究が進められている。大量の移動情報から、個人を特定されない形でLBAなどに再利用できる情報を抽出する技術であり、MODAPの前身プロジェクトでの特徴的な成果は次の通り。T-*のTはTrajectory(軌跡)である。

  • T-Warehouse: 軌跡情報用のOLAP
  • T-Clustering: 同じような移動をする人々のクラスタを特定
  • T-Anonymity: 軌跡情報のk匿名化(k=2の時、同じ軌跡の人が2人いる)
  • T-Patterns: 軌跡情報から時空間的な特徴あるパターンを抽出(9時にA駅→10時にB駅など)

先行LBAを待ち受けるユーザの意識変化

では、国内ではどうだろうか。セカイカメラのエアタグなどは広告プラットフォームとしても始動している。バスツアーまであるコロプラをはじめとした位置ゲーも同様である。

2009年に独自に行った動向調査では、国内のユーザは位置情報を個人情報と見る意識がやはり高い。ただし、対価を得られる場合やサービス改善のためにしか使われないということが担保されている場合、位置情報の開示には寛容という側面もあった。モバイルアプリの開発をしている知人は、匿名性と商売っ気が出ていないことをユーザは重視すると言っていた。LBAの話題と関連の深い、ジオメディアサミットで議論されていたことに、巨大IT企業がLBAプラットフォームを押さえてきてもそれをうまく利用・連携するということがあった。品質や匿名性に厳しい日本のユーザに対応してきた自負が感じられ頼もしい。

位置情報サービスが普及し、MODAPのような軌跡のデータマイニングや匿名性の研究が進むと、LBAを含む位置情報サービスのプライバシーが世界的に問題になるだろう。その時に、サービスの質の低下を最小限に食い止めてサービスを提供し続けることが、先行するLBAに突きつけられる課題である。個人的には位置ゲーが輸出産業となるよう、資金源となるLBAには寛容でいたいと考えているのだが。