待ち望まれていたIPサイマル放送

Radiko

最近開始された期間限定のIPサイマル放送が話題を集めている。ネット上で、ほぼリアルタイムで地上ラジオ波で放送している番組とCMも含めて同じ内容を聴くことができるという、radikoである。2010年8月末までの試験放送で、東京圏と近畿圏という限定的なサービスではあるものの、サービス提供開始からわずか1週間で543万ストリームもの利用があった。3月15日にサービスインしたばかりであるのに、radikoを利用するためのWindowsアプリ、ガジェット、iPhoneアプリなどが多数発表され、瞬く間に一つのジャンルとして確立してしまった。

ここでradikoについて手短にまとめてみよう。主な在京民放ラジオ局、在阪民放ラジオ局が参加するIPサイマルラジオ協議会が提供しているサービスであり、在京民放ラジオ7局、在阪民放ラジオ6局の地上波ラジオ放送を、在京7局が東京、神奈川、千葉、埼玉、在阪6局は大阪、京都、兵庫、奈良に限ってネット上で同時放送するというものである。

試験放送ということもあり、サービスイン当初は接続に失敗することもあったが、一旦接続が確立されれば安定してクリアなラジオ放送を聴くことができる。Webブラウザで簡単にアクセスできる手軽さと相まって、PC利用時の必須アイテムとなりそうだ。

ネットラジオ

インターネットラジオ自体はかなり前から普及しており、多くの局が世界中に存在する。こちらのほうがサービスエリアの限定がないのでどこにいても全ての局を聴くことは可能である。国内の局も存在する。

また、J-Waveは以前よりインターネットラジオ、Brandnew-Jを提供している。ただ、こちらのほうは地上波放送とは別番組構成となっている。東京FMもPodcastやライブ放送後に時間差をおいてWeb Radioとしてネットに配信している。その他の局も限定的なストリーミングやダウンロード配信を行っている。実は、ラジオのIPサイマル放送も地方FM局では盛んに行われており、サイマルラジオにて取り纏められている。

ネットラジオを統括するサイトなども数多く、ネットラジオ自体はもうとっくに枯れたサービスである。そんな中で、降って沸いたようなradikoへの関心や期待はなぜこれほどまでにも高まったのだろうか。

ネットメディア革命

Radikoへの関心の高さの理由はいくつかある。ラジオでラジオを聴く、という当たり前のことをしなくなってきたところに、いつも使っているPCで聴くことが出来るようになったこと。あるいは、既存のネットラジオと比較して地上波のラジオはコンテンツが充実している、などの理由がまずは考えられる。大都市圏のIPサイマル放送としては初の試み、という面もある。

しかし、既存メディアがネット上に進出してきたことへの驚きと、ネットユーザからのネットメディアへの歓迎ムードの高さが大きな要因であったのだろう。奇しくも、radikoは、新聞メディア(Financial TimesWall Street Journalに続き日経のWeb刊)の有料ネット配信、KindleiPadによる電子書籍の配信、地上波TV放送コンテンツ配信の黒字化などの、一連のネットメディアの大きなうねりの一部になっている。

ネット上に様々なメディアがミックスされ、好きなときに好きなコンテンツを見たい。そういうユーザが増えてきている。ハードウェアもそれをサポートしようと、スマートフォンやタブレットが進化してきている。音楽、書籍の電子配信については欧米に先を越されてしまっているが、ブロードバンドの発達した我が国ではネット上へのコンテンツの配信は推進しやすいはずである。過去の誤りの轍を踏むのではなく、過去のしがらみを振りほどいて、コンテンツ配信の活性化をめざすべきである。