ISO 21500の長い道のり

プロジェクトマネジメントの重要性が喧伝されて久しいが、その国際標準化が進んでいることをご存じだろうか。現在 ISO
で策定作業が進められていて、2012年には ISO 21500 として発行される予定だ。今回は、ISO 21500
の概要を紹介しつつ、今後の動向について考えてみる。

ISO 21500 とは

ISO 21500 とは、ISO が
2012年8月31日を目標に策定を目指しているプロジェクトマネジメントの国際標準である。プロジェクトマネジメントの標準というと、日本では米国PMIのPMBOKが有名だが、実は世界各国に独自の標準が存在する。英国のBS6079、欧州のICB、オーストラリアの
AIPM などがあり、日本にも日本プロジェクトマネジメント協会(PMAJ)の P2M という標準がある。

各プロジェクトマネジメント標準は、これまでそれぞれに独自の改良を加えてきている。相互に参考にしつつ成長しているため、大きな方向性に違いはないものの、用語の定義やプロセスの定義・粒度などが異なっている。こうしたプロジェクトマネジメント標準間の相違は、国際的なプロジェクトを実施する上で、コミュニケーションに齟齬を生じる原因になる。たとえば異なるプロジェクトマネジメント標準を使っている2社が共同でプロジェクトを実施する場合、作業プロセスを摺り合わせるだけでもかなりの労力を要することになる。

このような齟齬を解消するために、ISO 21500の策定が
2007年から開始された。現在は策定作業に参加している委員からの個別意見を取り入れた草案ができあがった段階で、今後は参加国別に意見を加えていき、完成版に仕上げていく作業が行われる予定である。

ISO 21500
が完成したら、また新しいプロジェクトマネジメント標準を勉強し直さないといけないかというと、そういうことではない。ISO 21500
は、基本的には英国の BS6079 をベースにしつつ、PMBOK
などの各種標準の要素を取り入れて標準化を進めている。このため、自分になじみのあるプロジェクトマネジメント標準との差分を理解することで十分対応できると考えられる。

2012年版では大枠が決まるだけ?

プロジェクトマネジメント標準というと、何百ページにも及ぶ分厚いガイドブックを思い浮かべてしまいがちだが、2012年にできあがる
ISO 21500
は、どうやらそのような大作にはならない模様である。その内容は、最低限の用語の統一と、39プロセス(予定)の概要と入力・出力程度にとどまることになりそうで、全体でも100ページに満たない分量になりそうだ。策定開始当時は、その標準を使った個人・組織の認証制度も視野にあったが、少なくとも2012年版では認証は対象としないことに決まった。

つまり、ISO 21500
が策定されても、プロジェクトマネジメント標準の大枠が決まっただけということになる。実際にどのようにプロジェクトマネジメントを実践するかは、まだ当面は従来通り
PMBOK などのプロジェクトマネジメント標準を参照することになりそうだ。さらに言えば、2012年に公式に ISO 21500
が発行される頃には、その他のプロジェクトマネジメント標準もそれに対応して改訂版が出される可能性があり、普通のプロジェクトマネージャはそれらの「ISO
21500対応版」を活用するのみで、具体的に ISO 21500 を直接目にする必要はないかもしれない。

理想は高いが長い道のり

確かに大枠が共通化されるだけでも大きな前進だが、より詳細なレベルで国際標準化ができなかった原因は、既存の各標準間の競合である。これは国際標準化の難しさとして一般化できるが、既存の標準から大きくそれないように最大公約数的な解決を目指そうとすると、どうしてもその内容はそぎ落とされていき、万人が納得できる大枠しか定められないことになる。

ISO 21500
には、プロジェクトマネジメントのみならず、複数のプロジェクトに対応するためのプログラムマネジメントや、さらには企業組織などに対応するためのポートフォリオマネジメントにまで適用範囲を含める構想がある。IT
業界ではプロジェクトマネジメントの重要性がこの5年くらいでかなり浸透したが、それと同時によりプログラムマネジメントやポートフォリオマネジメントの必要性も浮き彫りになってきている。企業活動の国際化が進む中、それらの国際標準化には大きな意義があるが、残念ながら
ISO 21500 の2012年版ではそれらの概念を言葉で説明する程度にとどまりそうである。

まだ2年も先の話だが、ISO 21500
の策定はそこではじめの一歩を踏み出すことになる。PMBOKなども第1版はまだそれほどページ数がなかったが、版を重ねる毎の内容の改変とともに記述の詳細度も高まり、ページ数も増えていった。ISO
21500 も版を重ねる毎にその詳細度を増していくと考えられるが、そのためには10年、20年といった長い道のりが待っている。