さよならインターネット、と会社人は言った

Twitterにいる実名の人と匿名の人

2009年を振り返り、ウェブサービスで一番話題を集め続けたのはやはりTwitterだろうか。Twitterはおしゃべりに他ならないので、いろいろな切り口で語れるというおもしろさがある。筆者が特に趣き深いとおもうのは、ひとつのタイムラインの上で米国流の実名主義と日本流のハンドルネーム主義が混在していることだ。実名で仕事や生活の話を次々とつぶやいているのは、ITベンチャーの社員やライター、作家、アーティストや芸能人などが多い。一方でいわゆる大企業の会社員がTwitterを実名で利用している例がどれだけあるかというと、私の見る限りおどろくほど少ない。なぜだろう。

おなじような現象はブログにおいても見られる。やはりITベンチャーの人達が実名で使いこなす一方で、多くのブロガーは「某メーカー勤務」などとプロフィールに書くだけで匿名に留まっている。いまさらブログ書き込み禁止、ネット利用禁止などというような会社はそうないだろうから、多くの人が実名でブログやTwitterを書くことを自主規制しているということになる。あるいは日本人はそもそも実名でブログやTwitterを書こうとはおもわず、実名で書こうとする人達のほうが特殊なのか。どちらとも考えられる。ともあれ実名でブログを書いていた学生が社会人になるとパタリと更新をやめてしまうというのはよくある例で、またすくなくとも社員にブログやTwitterの活用を奨励するような企業はほとんどない。

インターネット上では実名であるべきか匿名であるべきか、というのは古くからネットで議論されてきた問題であり、ここでは立ち入らない。それぞれに明白なメリットとデメリットがある。それよりも筆者が気になるのは、会社員が実名でブログやTwitterを利用しないことで、なにより会社自身が損をしているのではないかということだ。

企業とネットの断絶

今日、社員がブログやTwitterを使いこなすことでネット上で自然なプレゼンスを獲得しているITベンチャーは少なくない。負けじと広報ブログやTwitterアカウントなどを整備する企業もあるが、そもそも社員が社員としてブログやTwitterを自然に利用していれば、そういったブログやアカウントは不要だったはずだ。もちろん、炎上や情報漏洩といったリスクはあるだろう。しかしそもそもリスクと効用が天秤にかけられたことがあっただろうか。社員に実名で仕事の内容を書くよう推奨することが、プレゼンスの向上に役立つといった検討がこれまでなされてきただろうか。

ここ数年、企業はリスク管理の名の下にネットを遮断しすぎてしまったようだ。その結果、ネットユーザにとって多くの企業が人間味のない存在になってしまった。いまになってお茶目なTwitterの企業アカウントが注目を集めているのは皮肉なことである。本当ならそうした現象は、企業がウェブサイトを設けはじめた段階で、あるいはブログが広まった段階で始まっていてもおかしくなったのだ。

企業はネットの力を取り戻せるか

ゼロ年代は間違いなくインターネットの時代だった。多くのウェブサービスが生まれ、人々の生活を大きく変えた。しかし企業においては、そうしたトレンドをほとんど生かせていない。ブログやmixi、GmailやTwitter、みんな個人が企業とは離れたところで使っているだけである。

例えば「Yahoo!知恵袋」や「教えて!goo」「人力検索はてな」のようなサービスを企業が積極的に取り入れば、社内の問題を低コストでもっと早く解決できるかもしれない。SNSのプロフィールに会社名を書くよう奨励すれば、個々の社員が意外な人脈を築き、そこからビジネスが生まれる可能性もある。仕事の関係をSNSへ持ち込めれば、名刺を管理する必要もなくなる(かわりに日記の書き分けが必要になるかもしれないが)。

あるいは企業宛にメールを送るとき、数メガバイトの添付ファイルがあると上限を突破したとエラーが送り返されてくることがある。なぜだろうか。無料のGmailは25メガバイトまでの添付ファイルを送信できるのに。多くのオープンソース開発プロジェクトがオンライン上でバージョン管理をしているのに、多くの企業がファイルのバージョン管理をできていないのはなぜだろうか。

今はまだ、ブログを実名や企業名を「晒して」書くなんて、業務でSNSやGmailを使うなんて、という声が一般的だろう。しかしそれはゼロ年代に生まれたイノベーションを無視するということに他ならない。そのうち企業がネットの力を本当に使いこなす日がいつか来るのではないか……と本コラムの結びを考えていたところで、「ソフトバンクグループ全社員2万人がツイッター開始へ」というニュースと「メールや社内ウェブ、グーグルを利用 富士通子会社」というニュースが飛び込んできた。今後こうした事例はどんどん増えていくに違いない。