今年も残るところあとわずかとなった。 皆さんにとってはどのような1年であっただろうか。 100年に一度の不況といわれる厳しい環境の中で、地方を中心に 厳しい状況に置かれた企業も多かったことと思う。 こういう中で、ITの進歩が地域産業の活性化に貢献するという事例はないのだろうか。
バーチャル農園による耕作放棄地の有効活用
しばらく前の食品に関する様々な事件が発生したこともあり、 最近は食の安全に対する関心はかなり高まっており、 その結果、農業に関する興味も、以前よりも高まっているように思う。 しかし、忙しいサラリーマンが農業体験を行うことはなかなか難しい。 そのような背景を受けて、農業体験には興味あるが農園にはひんぱんに通えないという30~40代を ターゲットにした新たな農園の試みとして、NECビッグローブは、 ネットを活用したレンタル農園「BIGLOBEファーム」 を来年2月にオープンすると発表した。
「BIGLOBEファーム」では、実際の農園を一般に貸し出すとともに、 Webを活用して、実際の農園とWeb上のバーチャルな農園を連動させる様々な仕組みを提供する。 作物の様子をネットワークカメラで自宅から確認するだけでなく、 農園の管理人に栽培方法に関する相談をしたり、収穫のために訪問する時期を検討したり ということを遠隔で行うことができる。 相談内容と回答を蓄積するFAQのコーナーも設けることで、ユーザー間のノウハウ共有も図れるようになっている。 また、バーチャル農園SNS「iplant」という機能も設けている。 ここでは、BIGLOBEが販売する固有のIDの紐が付いた作物の種が現地でまかれると、 サイト上で作物の実際の生育状況に応じてサイト上の作物も成長するようになっており、 コメントなどを書き込むことで成長日記として楽しめるようになっている。 ユーザー同士で交流できる場も設けられており、実際の農園とWeb上の両方でユーザーが 交流できるようにしている。
「BIGLOBEファーム」の実際の農園運営はマイファームが 行っており、この会社は、全国に広がる耕作放棄地をレンタル農園に転換する事業を行っている。 地方の使われなくなった農地の再利用に都心などの別の地域の需要を上手くマッチングさせる ことによって地域の活性化を図る意図もあるわけだが、 Web上の仕組みを上手く使うことにより、都心と地方の需要と供給の関係を 上手く繋げたということとしては、非常に面白い試みであると思う。 地方の活性化の一つのビジネスモデルとして、今後の発展に大いに期待したいところである。
地方工場を活用したカスタムメイドの車の製造
米国のマサチューセッツ州の LOCAL MOTORS は、 インターネット上の仕組みを活用して新たなビジネスモデルを用いて自動車を製造していることで注目を集めている。 この会社はカスタム・デザインの車を提供する会社だが、 面白いのは、小さな町の修理工場レベルの規模の工場を使って車を製造しているところである。 特徴的なのは、車のデザインについては、 Web上のコミュニティーメンバーが賞金つきのコンテストで投票して決めていることで、 こうして決まったデザインに従って、LOCAL MOTORS の地方の工場で車が製造されることとなる。 また、デザイン関係者の話し合いや開発関係者の話し合いもWeb上で行われており、 これは顧客側からもみることが可能となっている。 顧客からの透明性の向上と、物理的なオフィスを持たずに既存のオープンソースの ソーシャルメディアを活用したバーチャルオフィスを活用することで、コストの削減も実現している。 事実、LOCAL MOTORSの本社は、マサチューセッツ州の郊外にある小さなオフィスである。
自動車産業といえば、車の設計から製造に至るまでに多くの時間と投資が必要になり、 製造された後も、販売店のネットワークを通して顧客が車を手にするという大掛かりな 仕組みの上に成り立っている。しかも、製造した車が顧客のニーズに何処まで応えられているか は販売を開始してみないと分からないというのが実態だ。 これに対して LOCAL MOTORS は、Web上コンテスト方式を活用することにより、 事前に顧客のニーズを把握した上で車を設計し、Web上の仕組みを上手く活用することにより 販売店を介さずに顧客に車を届けることを実現している。 しかも、投票によって顧客が一番求めているデザインを選ぶ方式を採用することで、 一人の顧客の夢の車を作るということではなく、ある程度の台数が売れる カスタム・デザインの車を作ることが可能となった。 この投票の部分は従来の方式で行えば費用がかかったところだが、 これをWeb上で行うことにより低コストで実現できるようになり、 顧客がカスタム・デザインの車を比較的安価に所有できるビジネスモデルを実現した。
このモデルは顧客満足が高いだけではなく、地域の産業の活性化に貢献するとともに、 過剰な生産を伴わないという点で地球環境への配慮も実現している。 大規模な設備投資を必要とする製造業の世界では、Webを活用したところでビジネス モデルを変えることは難しいと考えられていたが、その概念を覆したという 点で今後の発展に注目したい。
新たなビジネスモデルへの期待
このように、まだまだこれからという状況ではあるものの、 Webを活用した新たなビジネスモデルの構築により、地域産業の活性化が図られる事例は出始めている。 不景気という厳しい状況があるからこそ、世の中の仕組みが大きく変わる可能性も 十分にある。Webを活用したビジネスモデルが、バーチャルな世界から大きく踏み出して、 既存の産業構造に新たな光を与えることを期待したい。