都市を彩るグリーンIT

最近、植物をそのまま使っている、いわば天然素材空気清浄機(ANDREA: Naturally Purified Air)の存在を知り、かなり心引かれている。そして、これこそグリーンな技術なのではないか……と感じている。

他方、すっかり定着した感のある「グリーンIT」は、省電力・低発熱型機器の導入、仮想化によるサーバ統合などのイメージが先行している。ただ、どうも他にも見落とされている環境に優しいIT(グリーン+IT)があるのではないか、というのが本稿の動機である。本稿では、社会の中でのグリーン+ITについて、自治体側、住民側の両面から考えてみたい。

アーバンフォレストリーにみるグリーン+IT

まず、自治体側の目線でのグリーン+ITであるが、アーバンフォレストリー(Urban forestry, Wikipedia)の分野に着目したい。 アーバンフォレストリーは、都市部に存在する木々の管理全般について指す言葉である。 アーバンフォレストリーでは、植生の管理にITが活用されている。 具体的には、i-Tree – Tools for Assessing and Managing Community ForestsTreeTracker – Simple Street Tree Inventory Softwareなどのソフトウェアが利用されている。 木々の場所、名称、状態、手入れのTODO項目など、植生の管理に関するさまざまな情報を扱う。 一つのソフトウェアだけでも世界中でかなり使われている事実に驚かされる(参考: i-Treeの利用事例)。

さらに今後期待できる領域として、植生管理の意志決定支援が挙げられる。 まだ研究レベルではあるが、意志決定支援ツールなどが取り上げられ始めている。 実際のところ多様なステークホルダーがいる中での意志決定は難しいのだろうが、ある領域における木の種類による組合せなど、定量的な事実に基づいたアーバンフォレストリーには説得力がある。 個人的には、花粉やマンション周りの植生の美観などを考慮したモデルの広範な普及を希求している。

ゲリラガーデニングにみるグリーン+IT

つぎに、住民目線のグリーン+ITであるが、ゲリラガーデニング(Guerrilla Gardening)とITの関係は地味ながらも興味深いと感じている。ゲリラガーデニングは、ゲリラライブやゲリラ豪雨のガーデニング版とでも言うべきものだが、空き地に草花を突然植えてしまうというものだ。その起源は1649年までさかのぼるという。ゲリラガーデニングもグリーン+ITという意味では、Webのサービスを利用して成果結果を報告しあうレベルに過ぎない。ただ、Pict’Earthなど、リアルタイム性を持つGeoWebとの連動は活動を促進するだろう。Pict’EarthはラジコンヘリなどでGoogle Mapsの画像を局所的に最新版にするというサービスだ。柔軟に更新できるGeoWebはゲリラの機動性をカバーできるため親和性が高い。350年の歴史を持つゲリラガーデニングはグリーン+ITの主戦部隊となり得る。

協働と競争のもたらすグリーン

上述した自治体側と住民側の接点としては、EveryBlockのようなローカル情報発信サイトがあるだろう。植生に関するリクエストや情報公開など、双方向のアーバンフォレストリーに関するコミュニケーションが行われる。

では、その先のグリーン+ITはどうなるのだろうか。一つの示唆をStepGreenがしている。キーワードは「協働」と「競争」である。

StepGreenのサイトでは、環境に優しい行動をするための仕組み、主としてCO2排出量を個人レベルで削減するための仕組みを提供している。○○したら△△グラムCO2の削減に貢献した、などの情報が記録される。乱暴に言うとCO2排出量削減SNSなのだが、みんなのがんばり次第で、サイト上の絵の中で今にも溶けそうな氷の上にいるホッキョクグマを助けられるなど、協働のモチベーションを維持するようにコンテンツに工夫がなされている。また、個々人の成果を定量的に比較する、つまり競争を誘発することができ、CO2削減のインセンティブに結びつけている。協働と競争が有効なことを心理学的に押さえた背景を持つプロジェクトである。この心理はゲリラガーデニング情報を(Geo)Webで共有する行為にも共通する。

今後のグリーン+ITの展開はStepGreenの延長上で、個人や組織のグリーンへの貢献が詳細なレベルで共有・評価されることになるところにあるだろう。例えば現在のStepGreenでは、「木を植える」という漠然とした情報しか含まれていない。しかし、植物の生態モデルの高精度化(参考: CEES Research Units)や、衛星によるリモートセンシング(参考: 赤外センサ搭載超小型衛星によるCO2「感測」の取り組み/PDF)、空撮画像サービス、など、自動的、定量的な情報共有と評価への展開を期待させる取り組みが進行している。その先には、草木・草花を植えることへのインセンティブを高めるグリーン+ITの進化形がある。

現在議論が進められているコンパクトシティ構想の具現化とともに、本稿で述べてきたグリーン+ITの活用度合いは高まると考えられる。コンパクトシティーの影響でできた空き地に草木や草花を植えることで環境だけでなくヒトにも優しい、これも「グリーンIT」が目指すべきところではないだろうか。