黒船Kindleは日本語鎖国を解消できるか

Amazonの電子ブックリーダーKindleが10月19日から日本でも購入・使用できるようになった。Kindle に憧れていた著者は後先を考えずに発表と同時にすかさず予約購入したのだが、仕様を冷静に見て躊躇した人も多かったに違いない。なぜならば、現時点では日本語の文書が読めないからだ。

Kindle の優れているところ

改めて、Kindle の優れているところを考えてみよう。ハードウェアとしては、E Ink という電子ペーパーが使われているところが最大の特徴だろう。通常のパソコンなどで使われる液晶と比べて消費電力が少ないため、1回の充電で長時間使用出来る。重量も300g弱(Kindle2の場合)なので、通勤電車で読むために常時カバンに入れておいてもそれほど苦にならない。

書籍をダウンロード購入する際は、3G 携帯ネットワークを使う。従来は米国内のみだったが、今回国際版が出されたことにより、国際ローミングで日本を含めた100カ国以上の地域で利用可能である。携帯ネットワークを使うと通信料金が気になるところだが、Kindle を使う分には無料である。

販売されている書籍や雑誌が安価なのも魅力的だ。例えば Newsweek 英語版の場合、日本の書店で購入すると定価840円だが、Kindle 版は$2.99 で半額以下である。

Kindle が(現時点で)ダメなところ

冒頭でも触れたが、今回日本でも購入・使用できるようになった Kindle の最大の課題は、日本語対応である。日本語の電子ブックが販売されていないことに加えて、単純な日本語のテキストファイルも読むことができない。技術的には、日本語を表示することはそれほど困難ではない。フリーの日本語フォントも自由に手に入るし、ソフトウェアのアップデートで今後十分に対応可能だろう。

そうなると、あとは気軽に日本語の電子ブックが購入できるようになればよいのだが、これはかなり困難を極めるだろう。日本でも電子ブックリーダが各種発売され、電子ブック市場の活性化が期待された時期もあったが、ご存じの通り死屍累々という結果に終わり、携帯電話以外の電子ブックリーダーはほぼ全滅である。

Googleブック検索の魅力と課題

黒船という観点からいうと、より過激なのが Googleブック検索だろう。紙媒体の書籍を専用のスキャナで電子ブック化して全文検索できるようにするこの試みは、すべてのデータがグーグルに吸い込まれていく気持ち悪さはともかく、絶版になった本が瞬く間に手に入るなど、エンドユーザの立場からはとても魅力的だ。

しかし、当然の反応として著作権者からの反発は多く、特に日本では2009年4月に日本文藝家協会から反対声明が出されるなど、概ね反対する方向で進んでいる。

確かに Googleブック検索のやり方は強引なのだが、この一連の騒動がまさに日本で電子ブックリーダー市場がなくなってしまった原因を端緒に表している。インターネットの普及により、書籍の電子ブック化は時代の要請だと思うが、日本の多くの著作権者はそれに対する答えを持ち合わせていないようだ。切り絵漫画家の梅吉氏は連載中の誌面で、このGoogleブック検索への自身の対応について「正直よくわからない」と述べているが、このように著作権者個々人に判断を委ねてしまっているのが問題なのである。

その結果、日本での電子ブック化は遅々として進まず、電子ブックリーダーが発売されてもコンテンツ数が少なく、エンドユーザから見向きもされなくなってしまったわけだ。

日本語電子ブックのマーケットプレイス構築へ向けて

Kindle という専用端末で成功した Amazon に対抗して、Google も Google Editions という有償の電子ブック販売サービスを2010年から提供しようとしている。Google ブック検索との差別化が難しいところだが、世界の電子ブック市場を Amazon と2分する勢力になるかもしれない。

日本語書籍がこのまま殻に閉じこもったままでは、いざ電子ブックを推進する段になって立ち上げる販売チャネルがこれらの大勢力に敵うとは思えない。日本語電子ブックを健全な形で流通できるマーケットプレイスの構築が急務である。

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