スロービジネスをもう一度

Twitterはビジネスに使えるか……の前に

先日ぼんやりテレビのニュース番組を見ていたら、最近話題のミニブログサービスTwitterが特集されていた。前半はTwitterとはなにか、ユーザの声を混じえながら概要を説明しており、後半はTwitterを利用したビジネスに話題が移った。番組中でも紹介されていたが、Twitterのビジネス活用についてはデルの事例がよく知られている。同社はアウトレット製品を中心にTwitterで広告を行い、300万ドル以上もの売り上げを得た。

一方、Twitterのビジネス利用というといつもデルの事例ばかり目にするのも事実である。デルは直販に強みを持つパソコンメーカーであり、テレビ、新聞、雑誌などさまざまなメディアで広告を展開している。同社にとってTwitterは広告チャンネルのひとつにすぎない。Twitterへの広告配信に大きなコストはかからないし、ITリテラシーの高いTwitterユーザがアウトレット製品に飛び付くのも納得できる。このようにデルの成功にはれっきとした理由があり、Twitterに魔法の力があったというわけではない。しかし残念ながら番組ではそのようには語られていなかった。そもそもこれだけビジネス活用の騒がれるTwitter自身がまだ収益性を確保していないのは不思議なところで、最近も新しいファンドを得たと発表になったばかりである。

ビジネスに使えるか……の前に

不況のせいか、近頃なにか新しいトレンドが生まれたかと思うと、すぐにどうやってマネタイズするかという話題になりがちである。ほんの一年半ほどまえにはSecond Lifeのビジネス活用がずいぶん騒がれていた。しかし今では話題を耳にすることさえない。Second Lifeは消えてしまったわけではなく、いまもユーザ数を拡大している。ちょうどいまTwitterにおけるデルの成功事例が話題になっているように、あのころはSecond Lifeで1億ドルを稼いだAnshe Chungが話題になっていた。そのあと企業・個人を問わず大勢がSecond Lifeの活用に取り組んだが、今では誰も振り返ろうとしないので、それらが成功だったか失敗だったかさえ分からない。

同じような例はいくらでもある。iPhone App Storeが登場したときはモバイルアプリストアという新しいマーケットが創成されたと騒がれていた。しかしアプリが大量に登録されるようになると、今度はあっという間にアプリ単価の下落が始まった。同様のモバイルアプリストアをはじめたばかりのマイクロソフトはアプリ単価を上げるよう開発者を鼓舞し、Palmは同社の承認なしでモバイルアプリを配布できるサービスを立ち上げた。iPhone App Storeが登場してまだ一年とすこし。あっという間の出来事である。

ガートナー社では、このような様々なIT技術が持ち上げられ落とされて再評価されるまでをHype Cycleと名付けてグラフ化し、毎年発表している。面白いのは、Second Lifeのようなバーチャル・ワールドは2008年版にとつぜん谷底付近に登場し、2009年版にはもういない。ちなみにTwitterのようなマイクロブログは2009年版では早くも下り坂に位置している。

ビジネスパーソンたるもの、あらゆるところにビジネスの芽を見出そうという姿勢は奨励されるべきなのだろう。持ち上げられているあいだは利用して、落とされたものは見捨てていくという戦略もある。しかしそれぞれの技術をどう活用するか、見極める眼力を失ってしまっては意味がない。

ウェブ業界はめまぐるしいか

Hype Cycleを見ても、ウェブ業界というのはどうもめまぐるしいところだと思われがちである。しかしなにか新しい技術やサービスが登場して、次の日にはビジネスがすべて変わってしまうということはこれまでほとんど起きてこなかったのではないか。例えばいまでは信じられないことだが、Googleは登場後しばらくほとんどなんの収益もなかった。よくできてるけれど検索エンジン単体では儲けようがないしという声が一般的で、Googleを活用したビジネスチャンスなどほとんど誰も議論していなかったと記憶している。それでもサービスを拡充する中でユーザを増やし、検索連動型広告などで収益源を確保して、はじめてこれだけの影響力を持つ企業となった。ウェブ業界は斬新な技術やサービスがあればそれだけでお金が入ってくるようなところではない。お客さんがいて、その満足度を向上させて、始めて収益性が見えてくる、他のサービス業となにも変わらない世界なのではないか。

今後も新しいウェブサービスが登場するたび、それがまるであらゆるビジネスの特効薬になるかのような表現が飛び交うだろう。あるいは技術ひとつで世界を変えると自称するサービスが今後も登場し続けるだろう。重要なのはそうした喧伝に惑わされず、ひとつひとつのサービスが自社にどのようなメリットを持たらすのか考え、年単位でじっくりと取り組むことではないか。冒頭に例としてあげたデルは、他の企業が取り組んでいたからTwitterに取り組み始めたのわけではない。彼らは2007年からTwitterに取り組み、その2年間の成果が300万ドルなのである。

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