スマート実現に向けて

政府から打ち出されたCO2削減方針を実現するに当たって、期待されている対策が情報通信を活用した省エネ化や低炭素化によるものだ。なかでも、情報通信技術を利用することにより電力の需給を制御するスマートグリッドが、またその実現のために各種エネルギー消費をリアルタイムに見たり、制御したりするためのスマートメーターが、注目されている。電力等のエネルギーインフラに情報通信技術を使うことで、効率化を実現し、「スマート」なエネルギー供給を実現するものである。しかしその実現のために解決しなければならない課題も多い。

スマートグリッドとは

米国を中心に話題となっているスマートグリッドという用語はいろいろな場面で使われているが、一般的には次世代電力網を指すものである。既存の電力網では、火力や原子力などによる大規模発電施設から消費者(電力業界では需要家と呼んでいる)へ安定的にほぼ一方向に給配電することに主眼が行なわれている。近年、太陽光発電や風力発電などの比較的小規模な電力設備が消費者の近くに増えており、いわば「地産地消」される電力が増えている。太陽光発電が増えると、昼間に発電した電力は消費者周辺だけでは使い切れなくなり、電力網に供給される可能性もある。こうなると、電力の流れが一方通行ではなくなり、従来と異なる制御が必要になる。このような新たな市場環境やニーズに合わせた電力網であるため、次世代と呼ばれている。ただし、日本国内の電力網は、すでに安定的に制御されていることもあり、電力事業者はスマートグリッドに対しては消極的な態度をとっている。

ラスト1マイルの競争再び

高度な制御機能を実現するためには、リアルタイムに電力消費のデータを入手する必要があるが、その実現はそれほど容易ではない。

現在使われているメーターは積算メーターであり、瞬間的な消費量を知ることができない。そこで、積算メーターの差分から算出することになるが、1ヶ月に1度の検針では不十分で、1時間に1回等間隔を短くする必要がある。当然、手作業で検針するのは不可能になるため、何らかの通信システムによりデータを取得する仕組みが必要になる。

各家庭の多くにはインターネットサービスが導入されており、それを利用するのが一般的だろう。しかしながら、ADSLやFTTHのブロードバンド回線は、全国5000万世帯のうち3011万(2008年末)であるため、別途データを回収する方法を用意することになる。そこで、固定系の通信事業者のインフラだけではなく、電力網を利用するPLC(Power
Line
Communications)であったり、携帯電話網、WiFi、WiMAXなど無線通信を利用して新たな通信システムを構築することが検討されている。

かつて電力事業者は自社が持つインフラを生かして、PHSや固定の通信事業に参入したものの、関西地区以外では撤退しており、電力制御のためだけに新たな通信事業者になる可能性は低い。そのため、通信事業者にとっては、新たに数千万世帯のユーザが増える可能性もあり、どの通信方式を採用するのかが大きな焦点になっている。リアルタイム性が必要とはいえ、制御の速度を考慮すると、入手すべきデータ量はそれほど多くない。有線、無線などいずれの方式も利用可能であるため、リアルタイム対応メーター向けに、ラスト1マイルを提供する競争を決める主な要素は、コストや提供エリアということになるだろう。

「スマート」実現までの課題

Silver
Spring
Networks
等のベンチャ企業は、電力事業者、通信事業者と協業して、米国を中心に各種データの収集や制御するメーターに無線による通信機能を追加したスマートメータと呼ばれる機器を提供し始めている。しかしながら、データを取得する方式については、電力事業者、通信事業者、メータや通信機器のベンダ間で通信方式等の標準化が進められているものの、それぞれのニーズや思惑が異なるため、統一されていない。

通信コストは従来の人手による検針コストに比べるとコスト増になるとの試算結果もあり、電力事業者がデータの入手コストを単純に負担するのは難しい。そこで、新たなメリットとして、需要・供給のリアルタイムな制御により、送配電の効率化を実現することで、大規模発電設備を削減できるなどのコスト削減効果が挙げられる。スマートグリッドの普及のためには、データを利用した新サービスを実現するなど他の通信サービスとの融合し、電力事業者のみの負担にならないことが望まれる。

今後10年スパンで整備される次世代電力網の検討は始まったばかりであるが、変化の速い情報通信技術を活用する部分と競争する部分があり、今後の展開が注目される。

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