Windows 7の発売日が10月22日に決まった。ベータ版やRC版の評判も上々のようで、先行的に半額で発売されたアップデート版の限定3万本はすぐに売り切れたそうだ。今回は Windows にまつわる最近の事情を、筆者の関心事を中心に紹介する。
Windows XPの再インストール問題
仕事で補助的に使っていたデスクトップパソコンが壊れてしまった。4年ほど前に購入したベアボーンだが、どうやらマザーボードの故障らしい。仕方がないので別のデスクトップパソコンに Windows XP をクリーンインストールしたが、思わぬ落とし穴が待ち受けていた。
手元の Windows XP は無印(サービスパック無し)のパッケージ版なので、これをインストールするところまではスムーズにできた。問題はここから SP3 にアップグレードする方法である。まず最初に Windows Update を使って自動的にアップグレードできることを期待したが、無印の Windows XP では、最新の Windows Update 用のモジュール自体がインストールできない。仕方がないので SP3 を単体でインストールできるモジュールを探してみたところ、どうやら SP3 は、SP1/SP2 が適用済みの Windows XP しかアップグレードできない。結局、SP2 を単体でインストールできるモジュールを適用した後、SP3 に無事アップグレードできた。
個人的に不満なのは、無印のWindows XPを最新版の SP3 にアップグレードするパスがとても複雑な点だ。Windows Update という仕組みはとても優れていると考えているが、これが使えず段階を踏んでアップグレード作業をしなければならないというのがいただけない。SP3 適用済みのインストール用 CD を別途調達するという方法もあるが、Windows Update でアップグレードできないことが判った段階で、途方に暮れてしまうユーザも多いのではないだろうか。
しかしこれも、筆者がパッケージ版の Windows XP を使っていたから起こった問題で、多くの Windows ユーザは、パソコンにプリインストールされた OEM版を使っているだろう。この OEM版は、プリインストールされたパソコン専用のライセンスという位置づけなので、価格が抑えられている 反面、そのパソコンが壊れた場合でも、別のパソコンにはインストールできない。いわば使い捨てのライセンスということになる。そこで、Windows XP でしか動かないアプリケーションを使っているユーザのパソコンが今後壊れた場合に、新しいパソコンを買ってきて Windows XP の環境を作ることには、かなりの困難な作業が伴うことを覚悟しなければならない。
ダウングレード権問題
上記のような不安を払拭するため、マイクロソフト社は Windows 7 のダウングレード権に特例を設ける予定だ。通常は一世代前(Vista)までのところを、二世代前(XP)にもダウングレードできるようにするそうだ。ただし Windows XP にダウングレードできるのは最長で18ヶ月に制限されるため、例えば Windows 7 がプリインストールされたパソコンを Windows XP にダウングレードして使っていた場合に、HDD の故障などで OS をクリーンインストールし直さなくてはならなくなった時に、この期限を過ぎていたら、 Windows XP に再びダウングレードすることはできない。
18ヶ月も先の話を今考えても仕方がない、と感じる方も多いだろう。確かに個人ユーザの立場で言えば、筆者も杞憂だと考える。しかし、企業ユーザの立場になると、この問題は切実である。Windows XP のサポート期限は延長サポート終了日の2014年4月と考えてきたが、Windows 7 がプリインストールされたパソコンが主流になってくると、上で説明した18ヶ月という期間限定が効いてくる。つまり、Windows 7 の発売日から18ヶ月後の2011年4月以降は、Windows 7 から Windows XP にダウングレードしたパソコンが手に入らなくなるかもしれない。
いろいろな裏技を使って Windows XP を使い続けることは可能だと思う。しかし、企業にとって大きなリスク要因となることは間違いない。Windows XP は確かに便利で使いやすい OS だったからこそ、ここまで長寿命となったことには違いないが、いつかは別の OS に移行することは必然である。その切り替えをどのタイミングで実施するかは、自社の現状分析と今後のロードマップを丁寧に調査したのちに決心する必要がある。
ブラウザ依存問題
OS からすこし離れて世の中の流れを見てみると、SaaS、クラウドなどのサービス指向のキーワードが華やかである。それらの多くは原理的には、クライアントサイドの OS には依存せず、ブラウザなどの汎用ツールで利用可能となる。さらには対応デバイスもパソコンだけではなく、iPhoneやAndroid に代表される携帯電話や、ブラウザ機能を搭載した家庭用テレビなども対象となる。
そのように考えると、Windows を使い続ける必然性はあまりなくなる。将来 SaaS としてアプリケーションが提供されるのであれば、OS 非依存で自由度の高いクライアント環境が実現できるだろう。運用時のサポートを考えると、あまりに多種多様な OS が企業ネットワーク上にばらまかれるのも考え物だが、利用者のニーズに合わせたクライアント環境を提供することにより生産性向上への寄与も期待できるだろう。
くしくも先日、Google社からデスクトップ向けの新しい OS 「Google Chrome OS」が発表された。Google の各種サービスを利用するのが前提ならば、携帯電話向けの Android と同じく、デスクトップには Google Chrome OS でも十分かもしれない。
OSへの依存性から脱却できても、次はブラウザ依存の問題が待ちかまえている。最新版の各種ブラウザは HTML 4 や CSS2 への標準準拠度を上げてきており、ブラウザ依存度は原理的には低くなってきている。しかし、古いバージョンのブラウザも相変わらず使い続けられているため、それらに依存せざるを得ないという現実がある。さらには、HTML規格の次世代版である HTML 5 が現在 W3C で策定中だが、最近になって XHTML 2 を統合するなど、まだ流動的な要素が多い。HTML 5 が各種ブラウザで正しく利用できるようになるには一定期間が必要で、それまではどうしても特定ブラウザに依存せざるを得ない期間ができてしまうかもしれない。今後 SaaS などのサービスの導入を検討されている企業では、そのサービスがどの程度特定のブラウザに依存しているかを理解して、将来にわたって使い続けられるものかどうか、十分に吟味する必要がある。
本文中のリンク・関連リンク:
- Windows XP のサポートライフサイクルメインストリームサポートは今年の4月に終了。延長サポートは2014年4月に終了予定。
- Google Chrome OS の紹介。「Introducing the Google Chrome OS」(英語)
- XHTML 2 の HTML 5 への統合は、2009年7月2日にW3C から発表。
- デスクトップ環境の依存性に関しては、本コラムの執筆者の1人でもある飯尾淳が「新しいコンピューティングパラダイムにおけるユーザ・クライアントのあり方に関する一考察」において、オープン標準でない特定環境への依存の問題を取り上げている。