ライフログ・データパブリッシング:データ活用のブレークスルー

2009年4月1日より 全面改訂された「統計法」
が施行された。統計法とは、公的な統計の体系的・計画的整備に関する法律で、国の行政機関等が実施する統計の効率的な実施を目的として定められたものであるが、今回の改訂の大きなポイントは、統計データの利用促進策として、収集されたデータの二次利用を定めた点にある。

統計データの二次利用とは

公的機関によるアンケート調査は、消費動向や就業状況、住宅環境の現状把握など、ある調査目的に対して利用することを対象者に了解を得た上で収集されたものである。実施機関がその目的を遂行するためにおいて利用することを一次利用とすれば、目的外に利用することを二次利用と呼ぶことができる。

従来、日本では、こうした公的データの二次利用は(旧)統計法により原則として禁じられていたが、欧米では、公的機関のデータは古くから公開されることが前提となっており、過去の調査データを含めたデータアーカイブを用いて、大学や研究機関における社会動向や経済動向調査研究に広く活用されたきた。

今回の改訂は、過去のデータを含め、「個人が特定できない形で匿名化されたデータ」について、大学や研究機関での二次利用を認めるものであり、過去の統計データの利活用に向けた前進であると評価できる。総務省では、既に過去の消費実態調査や社会生活基本調査、就業構造基本調査等の
データ提供を開始 している。

民間レベルで進むデータ活用

一方、民間レベルでは、最初から広く利活用されることを想定してデータ収集を行っているものが既に存在している。

NTTデータライフスケープマーケティングによる 「食マップ」は、首都圏のモニタ(主婦)数百人を対象として、毎日の食材の購買情報や食事メニューの情報を過去十年以上にわたり収集しているものである。同社では、こうして収集されたデータベースや解析サービスを提供しており、ユーザである食品メーカや流通業者はこれらを利用することで、商品開発や販売戦略の策定に活用することができる。

また、 (株)日本医療データセンター(JMDC)では、医療機関から収集したレセプトデータや健康診断データを統合し、個人そのものあるいは個人の属性が特定できないように匿名化処理を施した上で、データベースサービスや解析サービスを実施している。健保組合や製薬メーカを主なユーザとして、薬のマーケティング分析や保険費用の統計的分析等に利用されている。データは2009年5月現在で、約1400万件とのことであるが、本来、薬の処方記録であるレセプトデータをこうした目的に利用することはデータの二次利用の先進的事例であるといえる。

人の動きのデータも公開されている。東京大学空間情報科学研究センター 「人の流れプロジェクト」では、東京都市圏交通計画協議会が実施した パーソントリップ調査(個人の一日の移動状況や異動交通機関の利用状況の調査)のデータを公開している。現在は、データクリーニングサービスにかけた約8万人のデータが利用可能とのことで、その用途は研究目的用に限定されているものの、どのような場所からどのような場所に、どのような人が移動しているのかが分析できるのであれば、明らかにマーケティングデータとしても利用価値が高いものになる。

さらに、金融分野では、ソーシャルレンディング(たとえば Maneoなど)のように、貸し手と借り手のマーケットプレイスのような試みも近年ビジネス化されてきている。現状では、仲介者が借り手の与信を調査し、貸し手に情報を提供する仕組みであるが、将来的には、このようなマッチングビジネスにおいて、貸し手が直接借り手のニーズを解析するための二次利用といった仕組みも考えられる。

ライフログデータの二次利用価値

上で示したような食事のデータや医療データ、また移動履歴は、いわゆるライフログの一部である。ユーザの購入履歴や行動情報などを含めて、今後はより包括的に個人の行動を把握するためのデータが蓄積されていくはずである。このようなライフログデータは、収集元が個人向けサービスを行う際のデータとして利用するだけでなく、データの二次利用により、従来にない全く新しい価値を創造することができる。

たとえば、生命保険や損害保険の各社の持つ顧客情報がもし横断的に収集できれば、保険の実態や疾病分析、事故要因分析などに活用できるほか、保険会社自体にとっても自社の位置づけを明確化し、マーケティングに活用することができると考えられる。同様に、SUICAやPasmo
のデータやクレジットカードの利用データ、コンビニのPOSデータなどは利用者数も膨大であり、社会動向調査やマーケティング調査などへの二次利用価値が非常に高いものである。無論、横断的に個人の行動履歴情報を収集・活用することは、技術的、制度的、さらには業界の慣習的な面からも課題が多いが、大量の行動履歴情報の二次利用は、データ活用という観点から見れば大きなブレークスルーになることは間違いない。

実際、政府が検討を行っている 「国民電子私書箱」は、個人の行政情報をネット上で一元管理する構想だが、位置情報や電車の乗降情報、購買履歴などのライフログ等、民間セクタにより収集される部分とあわせて、民間企業のマーケティングなどで利用することも想定されているようである。日本の個人情報保護法に相当する法律を持たない米国では、かなり緩やかにデータの利活用が進展しており、今後想定されるライフログ基盤についても米国先導で進んでいく可能性がある。今後、わが国がライフログデータ活用基盤を先導していくためには、国としての取り組みに加え、業界団体としての積極的な取り組みやニーズの顕在化が必要になるだろう。

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