何度目の正直? ~Web3Dの歴史と課題~

何かと新しい話題を提供してくれるGoogleが、今度はブラウザ上で3次元モデルを閲覧できる仕組みO3Dを発表した。この分野はWeb3Dと呼ばれ10年以上前から取り組まれているものの、いまひとつ普及していない。意外なことに10年以上続いている本コラムでも、軽く話題にしたことはあったがきちんと触れたことはなかった。今回はWeb3Dの歴史を振り返りつつ、「今度こそ普及するか?」を考えたい。

Web3Dの苦難の道のり

1990年のWWW登場後、1992年にはMosaicブラウザが開発され、インターネットは爆発的に普及した。「テキスト、画像の次は3次元だ!」と意気込んで、1994年には3次元の物体を記述するための言語VRMLが開発された(その後、VRML97も開発されている)。しかし、当時は精緻な3次元モデルの情報を送るには通信速度が遅く、また、プラグインが必要だったことから実際にWebサイトで3Dモデルを公開したのは一部の個人に留まった。

2004年にはVRMLの表現能力を改善したX3Dという新規格がISOによって承認されたが、VRML以上に利用されず、むしろ独自規格が好まれた。たとえば、ヤッパはファイルサイズが小さいことを特徴とするJavaベースの技術を開発し、いくつかの自動車メーカー等が採用した。また、Web上でオフィスプランニングができるツールを独自に提供した企業もある。

その後はブラウザ上で3次元モデルを表示するWeb3Dではなく、独立したアプリケーションが好まれた。Second lifeやGoogle Earthの登場である。最近登場したストリートビューは3次元ではなく2次元の全周画像でしかない。

このままWeb3Dが衰退していくかと思われたときに登場したのが今回のGoogleのO3Dだ。特徴として、ブラウザからハードウェアの3Dアクセラレーション機能が利用できるため高速に表示できること、将来的にブラウザへ組み込まれるため特別なプラグインが不要なこと等が挙げられている(なお、同様のCanvas3Dという仕組みをFirefoxを開発するMozillaも開発中である)。

「高精細」よりも「手軽さ」を

O3Dのデモはすばらしく、また、ネットワークが以前とは比較にならないほど高速になったことを考えると、技術的な障壁はなくなったように思える。しかし、普及するかと聞かれれば、答えは「否」と答えざるを得ない。この10年にわたってWeb3Dが失敗してきた原因は技術面よりもむしろ、コンテンツ制作の難しさである。中小企業や消費者が3次元に興味がないわけではないが、3次元モデルの制作には技術も手間もかかり、ゲーム制作企業や資金に余裕のある大企業でないと手が出しにくいのだ。自社商品を3次元で見せたい(見たい)という欲求はあっても、制作にはモデリングツールを使いこなす必要があり簡単には作れないのだ。

他にも2次元のマウスとディスプレイで3次元の物体を操作するのが難しい、という根本的な問題もある。これは複雑な3次元シーンを閲覧する場合には大きな問題となるが、ひとつの物体を上下左右から見る程度であればあまり問題ではない。

容易に3次元モデルを制作できる方法として、写真を使う方法が開発されている。一枚ないし複数枚の写真を比較して3次元形状を復元し、写真をテクスチャとして貼ることで写実的なモデルを生成するのである。 Automatic Photo Pop-upやPhoto-To-3D.comのデモを見てみれば、もう少しで実用化できそうに見える。となると、残された課題はこのような技術がどのような形で実用化されるかだ。ブラウザ、メールソフト、オフィスソフトを使う程度の一般ユーザが利用することを考えると専用のソフトウェアは敷居が高い。たとえばオンラインショッピングシステムのプラグインとして提供され、いくつか写真をアップロードすると自動的にモデルが生成されて登録されるような仕組みが望まれる。

実写ではなく3次元CGを気軽に作りたい、という場合にはTeddyのようなソフトもある。難しいCG用語を知らなくてもとにかく簡単に作成できる。

Web3Dは技術面が先行するあまり、10年以上にわたって普及が進まなかった。CGM全盛の今、今後日の目を見るかどうかは、一部のハイエンドユーザではなく多数のライトユーザのニーズに目を向けられるかにかかっているといえよう。

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