OSSでオープンイノベーション

先月末の2月27日、沖縄は那覇で「オープンイノベーション促進セミナー」が開催された。セミナーには80名を越える聴講者が集まり盛況を見せた。筆者も講師のひとりとして参加し、オープンイノベーションに参加するために必要な技術を紹介するという名目で30分ほど講演を行った。本稿ではその概要を紹介する。本稿の内容に興味を持って下さった皆さんには、ぜひオープンイノベーションの世界に加わっていただきたいと願う次第である。

オープンイノベーションとは何か、どうすれば参加できるのか

オープンイノベーションとは、カリフォルニア大学バークレー校(UC
Berkerey)のヘンリー・チェスブロー教授が唱えた概念である。これまでのイノベーションは組織の中に閉じた開発で培われたものであることが普通であった。しかし開発のスピードが急激に速くなり、それではイノベーションの波についていけないことが明らかになってきた。そこで組織内外の有効な成果をうまく取り入れて効率的にイノベーションを推進しよう、そのような考え方が、オープンイノベーションである。

オープンイノベーションへの参加は簡単だ。フリーソフトウェア(FS)やオープンソースソフトウェア(OSS、以下、OSSで統一する)を使えばよい。これらを使い倒し、さらに自ら開発する側に回ることができれば、なおよい。

なぜOSSを利用するとオープンイノベーションに参加したことになるのだろう?
それは、OSSそれ自体がソフトウェア分野におけるオープンイノベーションを具体化したものだからだ。OSSはインターネットを介して多数の開発者によって構築されていく。そのプロセスは開かれており、またその成果は様々な形で応用されていく。ときには他で開発されたOSSの成果を取り込んでいくこともあるだろう。その過程はまさしくオープンイノベーションそのものである。

OSS選択のケーススタディ(OSSカタログ、マップ)

とはいえ、自分のしたいことに対して効果的なOSSを選ぶことはなかなか難しい。OSSのソフトウェア・リポジトリ(OSSプロジェクトを集積したデータベースのようなもの)として代表的なSourceForge.netには、2009年2月末の時点で17万弱ものプロジェクトが登録されている。このような数多くのOSSから、本当に有効なソフトウェアを選び出すことはなかなか難しい。本稿ではケーススタディとして、いくつかの選択事例を紹介することにしよう。

まずは昨年度に公開された「OSSオフィスアプリケーションカタログ」である。これは独立行政法人情報処理推進機構が2007年度に実施したオープンソースソフトウェア活用基盤整備事業の一環として、国際化JP株式会社が実施したプロジェクトだ。このプロジェクトではまず600件近いOSS候補を選び出し、有識者の助言を経て150程度に絞り込んだ。その際に、評価の観点として「成熟度評価」と「レベル評価」といった2種類の評価軸を設定し、成熟度の観点からは、機能の充実度、互換性、情報の管理・アクセス、情報共有、開発の安定性といった5項目、レベルの観点からは、アプリケーションの動作、ドキュメントの整備、バグ・問合せ・FAQ情報の整理、国際化及び日本語化対応、日本の活動組織といった5項目について、それぞれ5段階評価で採点した。

次に野村総合研究所が2006年から実施している「NRIオープンソースマップ」を紹介しよう。こちら、2006年に初版が発行され、2007年、2008年と毎年、改訂版が公開されている。この活動では、アプリケーションサーバや開発フレームワーク、BPM・ESB、業務アプリケーション、システム監視ツールといった分野に含まれる代表的なOSSを対象に、「成熟度」と「プレゼンス」の観点で評価している。プロジェクトの存続時間、コミュニティの活性度、関連ドキュメントの量・種類、リリース回数、品質などを成熟度の要素として用い、またウェブサイトでの関連用語登場回数、検索サイトでのヒット数、ダウンロード数、サポートを提供しているベンダー数などの要素からプレゼンスを判定する。評価結果は成熟度とプレゼンスを2軸とするグラフ上にマップされ、視覚的に各ソフトウェアの評価結果が描かれている点が面白い。

OSS選択のケーススタディ(ベトナム政府の例)

ケーススタディの最後は、筆者らが最近実施したベトナムでのプロジェクトに関するものだ。このプロジェクトはベトナム政府の電子化を、OSSを活用することで促進させることを目的としたもので、そのプロジェクトではベトナム政府の要望により主要なOSSのいくつかを選択し、有効性の評価を実施した。本件ではまず69カテゴリ262件の候補リストを作成し、さらにそこから34カテゴリ59件に絞り込んだ。最終的には10個の主要OSSを抽出し、その評価を行っている。

10個のOSS評価については、次に述べる観点からその優劣を判定した。すなわち、基本情報は整備されているか、ライセンスに問題はないか、オープンスタンダードに従っているか、基本的な機能に問題はないか、インストールとドキュメントは簡単か、利用者の増加傾向はあるか、マルチプラットフォームに対応しているか、インストール時間は短いか、コミュニティによるサポートはあるか、ベトナム語の取扱いに問題はないか、の10点である。

以上3つの事例をごく簡単に紹介した。いずれも、評価項目の細かな差はあるものの、結局はそのOSSが「こなれているかどうか」を重視している点に気づかれただろうか。「ソフトウェアの成熟度」は、OSSに限らずひとつの大きなトピックである。このテーマに関してはまた稿を改めて紹介してみたい。

審美眼・選択眼が重要

さて、このようにOSSの選択基準にはいくつかの項目があることを紹介した。しかし実際にOSSを選び出しオープンイノベーションの波に乗るには、これらの基準を使いこなせなければならない。要するに審美眼や選択眼を養うことが重要なのだ。

先に紹介した事例はいずれも、それなりに業界では評価されているソフトウェアの有効性を示すといった条件で評価を行ったものだが、海のものとも山のものとも分からない新しいソフトウェアを発掘するには、これらの基準で評価するだけでなく、ある程度、投資する気分で使いこなしていくことが必要になる。さらには開発を進めるために自らプロジェクトに身を投じることが必要になるかもしれない。

この道は決して楽な道とは限らないが、「オープンイノベーションの世界にOSSで漕ぎ出していくのは楽しい」ということを最後に主張しておこう。