リアルな地図とWebによる無線センサーネットワークの進化

地図上に情報をマッピングしたサービスを利用する機会は増えている。最近では、こうした地図を使ったサービスに、さらに現実世界に近い情報を組み込 む流れもある。その一例として無線で通信するカメラやセンサーの情報を使う例がある。今回はこうした流れと、センサー自体への影響について考えてみたい。

リアルな地図のための手作業

地図を使ったサービスはより現実指向になっていく側面がある。道路から撮影した画像をWebから閲覧できることで話題を提供し続けているGoogle Street Viewや、店の中まで見えるEveryScapeな どはその代表だろう。

また、上記の例は空間的な話だが、時間的な要求への対応もある。その際には、地道に人が情報を登録していくという方法が実は有効なようだ。例えば、 災害が起きた後の情 報収集などはその一例である。災害発生の直後は情報の収集に苦労をするとされているが、例えば、GPS携帯で撮った写真をそのまま電子国土に張りつけられ る仕組 みが災害対応として用 意されている(PDF)。同様に、被害状況を確認するために地図を更新する仕組みも考えられている。この仕組みでコンテンツを生成する際にまず必 要なものは ラジコンの操縦桿である。Pict’ Earthで はラジコンのヘリコプターを飛ばして上空からカメラで撮影をすることで、最新の地図コンテンツを生成する。

リアルな地図のためのセンサーによる自動化

情報を生成するという意味では、リアルタイムに実世界の情報を集め続けるセンサーは強力である。光、音、磁気、加速度など様々なセンサーがある が、今後は無線で通信をして自律的にネットワークを作り(無線センサーネットワーク)、さらにWebからアクセスされるようになるだろう。国内でも無線セ ンサネットワークシステム導入の端緒が見られる(EcoBino II, PDF)。そして今後は、こうしたセンサーにより地図に情報を追加するという流れが確立されてくるのかもしれない。

実際、Live E!The Vulcan ProjectSenseWebで は、すでにこうした試みが行われている。Live E!は専用の「デジタル百葉箱」と呼ばれるセンサー機器を設置し、気象情報など都市活動の情報をこちらも地球規模で集める意図を持つものである。また、 The Vulcan ProjectではCO2の排出源をGoogle Earth上で見えるようにしている。SenseWebはMicrosoft Researchによるプロジェクトであり、世界中の無線センサーネットワークをWebでつなげる枠組みを持っている。特にSenseWebでは、セ ンサーの 情報をWebサービスで管理するなど、開発者の創作意欲をかき立てるものだろう。

コンテンツ生成に関して、機械による自動化により人の手が掛からなくなる、というよりはSenseWebなどにより新しい表現の素材が提供され、ま た人が手作業で高度なコンテンツをその上に作ることになるのだろう。

センサーの情報が共有されることの影響

現在はセンサーの種類も数も限定的だが、将来的には環境モニタリングなどの用途で使われるセンサーの情報もブラウザで見られるようになるだろう。こ の 影響として、無線センサーネットワークのシミュレーターの性能が上がり、無線センサーネットワークの導入コストを見積もる精度が高まるだろう。これは、様 々 な環境でのセンサー自体の稼働実績データを収集することになるためだ。

ここで、環境モニタリングなどの民生用途で無線センサーネットワークの導入を考える。その場合、総保有コスト(TCO)の計算が必要に なる。 目的を満たすために、大体どれくらいの個数のセンサーをどのように配置すればよいのか、各センサーの電池はどれくらいの頻度で交換して…結局いくら掛かる の か、ということである。この見積もりを厳密にやろうとすると、専用のシミュレーターによるシミュレーションをする必要があるのだが、実際には室外環境下 での個々の無線センサー の消費電力をシミュレー ションをするのは難しい。天気や遮蔽物など設置される環境毎に異なる外的要因が多いためである。

ただ、センサーの情報が共有されるようになれば、次のようなシナリオが考えられるだろう。 『ある場所に無線センサーネットワークを導入する。動作のシミュレーションをするために、各センサーについて世界中のど こかに似た条件で配備されているセンサーの稼働実績を使おう』、というものだ。例えばカトマンズの商店街のに導入するある1つのセンサーについて、実は クィー ンズの住宅地の どこかに配備されたセンサーの設置条件が、センサーの 種類、過去の気象条件、利用用途などから一番近いので、その実績値を基にしてシミュレーションに利用する、といった具合だ。

今はWebのソーシャルグラフによって自分と嗜好や興味などの近い人について知ることができるが、今後は無線センサーについても同じように繋がる、 という進化を期待している。