ネットワーク家電の展望

年始なので楽しい話題を一つ。 「図解 ネットワーク家電(共著)」 を執筆したのは、ちょうどデジタルテレビが発売される前の約8年前である。 将来は、家電がネットワーク化され、様々な相乗効果が期待されるというコンセプトのもと 家庭内LAN、ホームサーバなどのネットワーク家電について記載した。 記載したほとんどのものは今や製品化されているが、 当時の思惑と少し異なる方向になってきたようにも見受けられる。

家電の機能への需要

ホームサーバは、画像や動画を家庭内の1台のサーバで共有し、各室の端末から閲覧する というコンセプトであった。 家庭内の最も大きな需要は、テレビやビデオの閲覧であるが、 リビングのデジタルハイビジョンテレビと同じ場所にハードディスクレコーダー設置する というのが、現在の一般的な設置パターンであろう。 デジタルハイビジョンテレビは大分普及が進んできたと思われるが、 まだ各室に行き渡るまでには至っていない。 つまり、ホームサーバの需要はまだまだこれからであり、 デジタルテレビが各室に行き渡り、現在のハードディスクレコーダーがその寿命を終えたあたりから その代替品としてホームサーバーの出番が来るのではなかろうか?

8年前の当時は、もちろんコンセプトではあるが、 「冷蔵庫はドアを開けなくとも中に何が入っているかわかり」、 「エアコンやお風呂は外出先から操作でき」、 「トイレで体重や血圧を測り、ネットワーク越しにヘルスケアサービスを受ける」 というようなことが言われていた。 しかし、どれも、やや無理があった。

家庭内ネットワークで普及したものは、インターネット端末としての複数のPCや、 1台しかないプリンタを接続したLAN(無線LAN、電灯線LAN) など、実用的なものに限定されている。

デジタル機器の進展と変化の兆し

最近のデジタル機器の目立ったところとして、以下のようなものがあげられる。

  • デジタルテレビとハードディスクレコーダの普及
  • 任天堂wiiのwii fitなどの話題
  • 携帯音楽プレーヤーや携帯電話による楽曲ダウンロードの普及
  • UMPC(Ultra Mobile PC)の普及によるユビキタス環境の促進
  • Google Mapsやgmailなどのネットワーク越しのサービスの進展
これらは、個々の製品、あるいは、ネットワーク上のサービスの進展であって 以前、語られたネットワーク家電と呼ばれるようなものではない。 しかし、ネットワーク越しのサービスの進展は、 それらが「インフラとして自然にそこにある」 という感覚を抱かせるまでに至っている。 ここから、次に述べる「家電の変化の兆し」が感じられる。

テレビに繋げるセットトップボックス au BOX は、テレビに繋いで、テレビでネット上の楽曲再生やストリーム動画再生やインターネット閲覧が可能な セットトップボックスである。 携帯やPCから、テレビを端末化した一つの好事例となっている。

ウィジェットへの期待

ウィジェットとは、インターネットを介して取得した情報を表示するグラフィカルなソフトウェア部品である。 WindowsVISTAやGoogleのガジェットが有名であるが、最近は、このようなPC上の1ソフトから飛び出して ソニーの液晶テレビBRAVIAや、 ウィジェットを実装できる情報端末chumby などでも利用できるようになってきた。 例えば、タッチスクリーンを備えたchumbyのような端末は、単にコンテンツを再生できるだけでなく スキンを変えたり、機能を変えたり、追加したりといったことができる。 PCでは当たり前だが、単品家電でこれができるというところに新鮮さがある。

ソニーの液晶テレビは、 アプリケーション・フレームワーク「アプリキャスト」 向けウィジェットの開発ツールを公開している。 また、chumbyについても、同様に公開されている開発環境でウィジェットの開発が可能である。 これまで、家電のファームウェアは、それを製造したメーカしか書き換えができなかったことを考えると これは、革新的である。 ウィジェットの開発ツールと、それを組み込む様々なデバイスがあれば、 PCより場所を選ばず、家庭内あるいは屋外へも持ち出せる小物として 様々な用途に使えそうである。 この考えは、何も、家庭内にとどまらず、オフィスや工場や、 様々な現場にも使えるものがでることを予見させる。 重要なのは、必ずしもメーカ主導でなく、より多くの開発者が参加できることにより、 より多くの優れたアイデアを実現できる可能性があることにある。