Where2.0による災害救助支援

Where
2.0というO’reilly社が主催する、位置や空間情報を利用したサービスに関する会議がある。扱う内容は、Location-aware,
Reality Mining, Augmented Realtyなど、技術者の興味を引くものである。興味深いところの一つにWhere
2.0 2008では災害救助に触れる発表があった。本稿では、災害救助とWhere
2.0と総称される技術との関係を考えたい。

Where 2.0で実現する世界と災害救助という観点

冒頭の災害救助に触れる発表では、実世界シミュレーションツールにより、建物や立体道路など建造物の内部を“透視”できるツールを災害救助に生かせる可能性を指摘していた。
その場の話は活用されていない建物の設計情報を災害救助に役立てるべきという所でとどめられていたが、活用することを考えた時には救援する側とされる側の視点で整理できる。

まず、救援する側のオペレータが災害時にビル内部の人に対して指示を与える際に内部のシミュレーション情報を把握していることは状況判断の上で必要だろう。
消防庁の活動情報支援システムとして開発されている位置表示システムはこの路線にあると考えられる。また、救助に向かう人が携帯端末の画面上で建物の構造情報を使えるとした場合、煙の向こう側の建物の構造を拡張現実感として合成画面で見るというシナリオも考えられる。携帯電話の拡張現実感ブラウザとしての浸透と、建物内のセンサーネットワークの進化などの前提はあるだろうが。

そもそも災害時に人はどう動くのか?

では、救援される側の視点ではどうだろうか。
仮に火災などの発生したビルにいたらそれこそパニックで、なりふり構わず、まして携帯電話に目もくれず一斉に出口を目指すのだろうか。
ところが、被災現場での人々の行動に関して、そうとは限らないらしい。

災害時の行動類型は、パニックに陥りやすい過剰反応型、諦め型、避難の損得勘定をしようとする費用便益反応型、がまん型、無関心型の5つに分けられ、過剰反応型は意外にも少ないとされる
過去に火災で多くの犠牲者を出したケースでも、パニックにさけるために人々を安心させるアナウンスを流して、結果として逃げ遅れる人を多数出したという。
当事者意識が薄く、パニックにもならない、また、異常事態に際しても正常の範囲内と思い込む正常性バイアスの掛かることが問題になりうる。こうした場合、適切な客観情報を与える仕組みが必要となる。

逆に、避難を一斉に始めパニックになる時は、いつもならできることも出来なくなってしまう状況に陥りやすいとされており、これを防ぐ必要がある。例えば、はしご車を待たずに高層階の窓から飛び降りてしまうケースが挙げられる。また、避難経路の前の人を押す状況を作り出す、出口の見えない不安を緩和する必要もある。十分な避難経路の確保はもちろんのこと、ここでもやはり客観情報を要する。

Where 2.0は災害救助で何を目指すか?

Where 2.0の要素技術を災害救助に絡めた際に、目指すところはどこにあるだろうか。
災害の被害をゼロにすることだろうか。もちろんそれは理想ではあるが、『災害の創造性』という言葉があるように災害の発生は予測できない部分も多く、実際には難しいだろう。

目指すところとして、客観情報提供サービスがあるのではないか。
全容を把握する情報に加え、いわゆる“いまだけ,ここだけ,あなただけ”の情報も提供するサービスである。
仮に拡張現実感の例で挙げたように携帯電話の画面を通して適切な避難誘導を行う場合、 その人にあった情報を見せる必要がある。
この人がパニックにならずに落ち着いて避難するために必要な情報は何なのか、といったことを把握した情報コンテンツである。
例えば、助かる可能性があるのに避難をしないケースを考えると、拡張現実感を見せることにより心理療法に似た原理で避難を誘発できることもあるのではないか。また、拡張現実感により希望を見出し、生き延びるということも有りうるのではないだろうか。
もっともこれは、助かる見込みの無い人に何を見せるかという倫理的な問題をもたらしそうだが。

いずれにせよ、詳細な位置・空間情報を集積し容易に利用できるようになった時代には、災害の創造性との戦いも新たな時代に突入するだろう。