超解像は次世代映像技術の要!?

「超解像」を売りにしたテレビとシステムLSIが登場した。「超解像(Super resolution)」という言葉からはどことなくSF的な印象も受ける。「超解像」とはいったい何なのか、どういった分野に使えるのだろうか。将来性も含めて述べたい。

超解像は鮮明な映像が得られる

超解像は低解像度の映像を高解像度の画面にきれいに表示させるための技術である。たとえば、画素数が720×480のDVDをフルHD (1920×1080)対応のテレビで見ることを考えてみよう。従来型の技術では間の画素の色を特定のアルゴリズムに則って推測・補間して表示する。しかし、多くのアルゴリズムでは滑らかな部分はきれいに補間できるが、色が急激に変化するエッジ部や頻繁に色が変わるテクスチャはきれいに再現できず、全体的にぼけた画像となってしまう。

一方、超解像技術ははるかに複雑な手順を踏む。超解像技術の場合には、前後のフレームの画像を参照して画素と画素の間を埋めたり、補間後の画像を縮小して原画像と比較し、パラメータを変化させて再度補間するといった処理を何回も反復させたりする。こうしてぼけの少ない画像を得ることができるのだ。

百聞は一見にしかず、まずはNECエレクトロニクスのプレスリリースにあるサンプル画像を見て欲しい。

技術の成熟とニーズがマッチ

さて、この超解像技術、だいぶ前からあと一歩のところまで研究されていた。たとえば、2003年には手持ちのビデオカメラで撮影した文書を超解像処理し、OCRに耐えうる解像度を得ようという試みがあった。しかし、A4一枚を処理するのに当時のPC (Pentium 4) で約1分かかっており、実用には壁があった。今回テレビに応用できるようになったのは、専用LSIとしてハードウェアで実装し、リアルタイム処理ができるようになったことが大きい。

一方、超解像に対するニーズも高まってきていた。「テレビはハイビジョンなのにDVDはハイビジョンじゃなかったのか」という広告をご覧になった方も多いだろう。大画面テレビが普及して再生環境の高解像化が進む一方で、コンテンツの側はDVDが未だ主流であり、家庭向けビデオカメラもDVが中心である。したがって、せっかくの大画面・高解像が生かせないという状況が生じていた。既存のコンテンツを大画面・高解像で楽しむ、といういわば「つなぎ」として、超解像はぴったりの技術といえよう。

超解像の技術はテレビ以外にも使える。メーカーからはワンセグを大画面のテレビで見られるようになる、低解像度で高速にスキャンしても高解像並の出力が得られる、といった提案がある。他にも、PCに搭載して「YouTubeをフルスクリーンで楽しむ」、機器に組み込んで「ドライブレコーダや監視カメラの映像を高画質化し、事件・事故解決に役立てる」といった応用もあろう。また、研究レベルでは生活の一部始終を記録する「ライフログ」にとっても、記憶装置の容量制限と画質を両立させる手段として使える。

超解像は「つなぎ」でなく「本命」の技術

こうしてみると、超解像は単なる「つなぎ」のための技術ではなく、映像を「要領よく」管理するための重要な技術といえる。理想的な映像管理は、「できる限り高解像度で撮影・保存し、閲覧環境の解像度にあわせて再生する」ことであろう。しかし、現実にはさまざまな問題がある。撮影機器(高解像度の機器は高価で普及していない)、ディスクの容量の限界(ブルーレイですらHD映像数時間の記録が限界、ハードディスクでも限界はある)、ネットワーク帯域の制限(放送、光ファイバーから携帯電話まで帯域は様々)などなど。これらあらゆるパターンに対応できるようなコンテンツを用意しておくのは難しい。大量の映像を保存し、配信するには、たとえばYouTubeのようにかなり解像度を落とさなくてはならない。

超解像処理した画像はあくまで推測された画像なので、本物の画像とは異なる。しかし、美しさ・精緻さが求められる映像以外はそれなりの品質で保存し、再生時に超解像処理を使ってきれいに表示させれば、多くの用途では十分な品質が得られるだろう。同時にコストも抑えることができる。美しさや利便性とコスト(記憶装置が少なくなるという意味では環境も)を両立させることにつながるのだ。超解像は単なる「つなぎ技術」ではなく、限られたリソースを効率よく使うことのできる「次世代の重要な技術」となるだろう。今後の超解像度技術の普及とさらなる高度化に期待したい。