途上国支援におけるインターネットビジネス研修の重要性

先月ASEAN(東南アジア諸国連合)の中でも発展がこれからの国といわれているラオスとカンボジアを訪問した。そこかしこに援助の跡があり、国際援助のあり方について考えさせられた。

難しい途上国支援

途上国支援と聞いて何を思い浮かべるだろうか。医薬品・食料・飲料水などの生活必需品の支援、道路・電力などのインフラ整備、農業や工業などの技術者育成などなど。生活必需品の支援は飢餓に直面しているなど日々の生活にも困窮している地域が対象で緊急避難的な支援といえる。次の段階として、産業を興すための人材育成や流通を支えるためのインフラ整備が行われている。国連も各国政府もNGOなどの非営利団体もさまざまな形で支援をしている。

さて、実際に現地を訪問してみると、大河にかかる立派な橋の脇の小川には人が渡るのがやっとの橋があり、きれいなトレーニングセンターの横には質素なトタン屋根の民家があったりする。いくら人材育成やインフラ整備をして産業の基盤ができたとしても、産業が生み出す製品やサービスを購入してくれる顧客を開拓していかなければ、広く末端まで支援の効果が広がって自立につながることはないのだと実感することとなる。

顧客開拓に関しては当然現地政府も力を入れており、NGOやフェアトレード団体も同様である。彼らはたとえば先進国の企業に地元の企業を紹介したり、「○○物産展」のようなイベントに出展したり、製品の販売をしたりしている。しかし、このような組織の助けがなくても国が自立・発展していくためには、現地の私企業の成長が不可欠であろう。

インターネットで途上国製品も売れる

もちろん、急速に発展している企業もある。たとえば、昨年、カンボジア初の国産ミネラルウォーターが販売され、現地で急速に売上げを伸ばしている。また、手軽なお土産が無かったアンコールワットでは、地元の材料を使って焼いたクッキーがここ数年ですっかりお土産の定番になった。現地販売ではなく輸出をしている企業もある。バングラデシュ特産のジュート製のバッグを製造・販売しているマザーハウスは、インターネット販売から次第に人気を博し、都内に3店舗を構えるまでに成長している。最近ではメディアにも多く取り上げられているのでご存知の方も多いだろう。

購買力のある外国への輸出は現地企業の売上げ増に大きな貢献をするが、輸出をするには輸出先(たとえば日本)の輸入企業や小売店、あるいは消費者に自分たちの商品を宣伝しなくてはならない。これまでは上で述べたようにイベントや政府の貿易促進センターの人手に頼っていたが、今の時代、インターネットは極めて有効な手段である。途上国の製品はロングテールの先の方かもしれないが、もともと大量生産に適していない中小企業にとってはロングテールの先の方であっても十分な収入が得られるだろう。マザーハウスはその好例といえる。このような企業の増加は途上国の自立につながるに違いない。

「知らない」を無くそう

日本人であれば、これからの時代、ビジネスでのインターネット活用が不可欠なことに異論はないだろう。実はマザーハウスも日本人が立ち上げた事業である(他の2例も日本人が経営している)。現地の人々にもインターネットビジネスのやり方を教えていかなくてはならないが、最も問題なのは現地の人々のマインドである。

日本では中小企業であってもホームページを持ち、ネット通販サイトを介して商品を売るのが当たり前になっている。これは、ホームページ制作が昔に比べればはるかに敷居が低くなり、ブログやCMSを使って簡単にそれなりのサイトが作れるようになったことが大きい。しかも、無料のサービスがたくさんあるので費用面でも心配は無い。 途上国でも、地方はともかくとして都市部の人々はメールやワープロくらいは日常的に使いこなしている。にも関わらず、ホームページ制作やインターネットビジネスと聞いた途端、「自分にはとてもできない。大学でITを専門に勉強した人でないとダメだ」と尻込みしてしまう傾向にある。彼らが活用しないのは、以下のようなことが原因である。

  • そもそもインターネットビジネスの利点がわかっていない。
  • PCやインターネット回線を所有していなくても、ネットカフェで十分であることを知らない。
  • ホームページ制作等が無料または格安でできることを知らない。
  • ホームページ制作等に特別な知識はいらないことを知らない。

つまり、彼らがインターネットを活用しようとしない理由は「できない」ではなく「知らない」であり、逆に言えば「教えて」あげれば彼らも積極的に取り組む可能性がある。 ITに関する途上国支援として、ITリテラシ教育やIT専門家を育成するための研修は盛んに行われている。また、ビジネスに関する研修もされている。これからはインターネットを使ったビジネスも積極的に研修していきたい。研修といってもITの専門家を講師に招いて難しいことを教える必要はない。むしろ日本の中小企業がごくあたりまえにやっていることや現地企業でインターネットを使ってうまく行き始めた企業のことを、その企業の人に紹介してもらった方がよい。まずは「自分たちでもできそうだ」と興味を持たせてインターネットを活用させること、それが重要である。