北京五輪へ向けて、スポーツの話題が日々マスコミをにぎわせている。 先週末も、女子バレーボールの世界最終予選が始まり、 テレビ観戦で多いに盛り上がった方も多いことと思う。 試合をテレビで見ていて、現在のスポーツが、いかに情報を 活用して戦うかに驚かれた方も多かったのではないかと思う。 今回は、スポーツと情報活用について見ていきたい。
ITによるデータ活用の迅速化
冒頭で話題にしたバレーボールでは、 アナリストと呼ばれる人々が、観客席でパソコンやビデオを駆使し、 対戦相手を分析している。 その分析データは、瞬時にベンチの監督やコーチが パソコンで閲覧することが可能で、試合の戦略に役立てている。 このため、試合の途中から、相手の状況に応じて戦略を変えるなど、 素早い対応が可能となっている。 例えば、「セッターが前衛ライトのポジションのときは、攻撃の ほとんどがバックアタック」というような情報が入った場合は、 それに対応してブロックを付ける、さらには、そうしてくる相手を 想定して、途中から攻撃のパターンを変えて相手の裏をかく、 といった情報戦が繰り広げられている。 こういったことは、一昔前では考えられなかったことだ。
むろん、これは、ベンチの外からの情報伝達行為を禁じている 野球などのスポーツではできないことであり、 こうしたスポーツと比較すると、情報への依存度が高く、選手が自ら考えて 行動する部分が少ないように感じられるかもしれない。 しかし、敵も見方も情報を駆使して戦っていることから、 状況の変化が激しくなり、結果として、選手は、情報を瞬時に 自分のものにして対応する新たな能力が要求されることとなっている。 データをいかに早く自分のものにできるかという能力も、 選手の運動能力の重要な要素の一部になっていると言えるであろう。
センサーを活用した情報戦
ハイテクを駆使して戦っているスポーツとして、F1を思い浮かべる人は多いであろう。 よく知られているように、F1マシンには多数のセンサーが埋め込まれており、 無線でピットへとリアルタイムにクルマの情報を送信している。 排気管の温度、エンジン内部の状況、ステアリングの角速度、 ブレーキ踏力やアクセル開度など、マシンに取り付けられた沢山のセンサーから、 様々な情報がリアルタイムで送られてくる。 一昔前からみれば異様な状況といえるが、技術の進歩に伴って、 ドライバーとチームスタッフにも、情報を活用してマシンを改良する 能力が問われるようになってきている。
モータースポーツであるF1の状況は、他のスポーツの事情からかけ離れている ことは事実だ。しかし、このような状況は、他のスポーツにまったく無関係ではない。 例えば、しばらく前ではあるが、スポーツシューズメーカーのadidasは、 adidas_1というチップを搭載したインテリジェントシューズを発売した。 このシューズは、走行中のアスリートの体重や、走行スピード、 路面コンディションなどの環境を把握するために、 磁気検知システムセンサーをかかと部分に装備している。 この磁気検知システムセンサーが走行中のアスリートのかかとにかかる衝撃をモニターし、 土踏まず付近に埋め込まれたマイクロプロセッサーがデータを分析して、 かかとのクッション性能を最適な状況に変えている。
この技術が発展し、例えば、マラソンの選手の状況を、 靴のデータから収集して分析し、体調の状況やフォームの改良点を把握する ために活用するということも、将来は考えられるようになるかもしれない。 更には、レース当日に、靴のデータを無線でリアルタイムに送信し、 監督やコーチが活用するというような日も来るのかもしれない。 そうなれば、戦い方そのものも変わってくるようになり、 勝つための戦略も変わるに違いない。
スポーツの情報戦略が教えてくれるもの
ここまでで見てきた通り、スポーツの世界では、 情報を収集し活用するためにITを導入し、 選手や監督、スタッフといった関係者が新しいやり方に対応し、 変化し続けている。 このことは、情報を駆使して経営を行う現代の企業にも当てはまることであるが、 企業の場合は、ITを従来の業務にあわせて導入することが多く、 なかなか組織が変化していくという段階には至ってない。 もちろん、組織の規模が違う企業の情報化と、スポーツでの情報化を 同じレベルで捕らえるということは無理があるのは分かっている。 しかし、これまでも、リーダー論や組織論でスポーツの事例が参考になってきたように、 ITを活用した情報戦略についても、これからは、スポーツ界の事例を参考にする ということも十分に考えられるのではないだろうか。 そういった目線で見てみると、 これからオリンピックまでのスポーツ観戦もより一層楽しめるのではないだろうか。