先日、某民放の番組で、生まれつき手に障害のある少女向けに 義手を開発するという心温まる話が取り上げられていた。 ここ数年で義手の技術は進化し、スターウォーズのルークの義手が 手に入るのも、そう遠い未来ではないのかなと感じた。
人の出す信号を読み取って義手を動かす
冒頭で紹介をした義手は、腕の表面筋電位をセンサーで読み取って、 義手を動かしている。文字通り、腕の表面の筋電位を読み取るので、 装着時に手術などの必要がなく、手軽に動かせるのがメリットだが、 操作が出来るまでに訓練が必要となる。
この方法の他に、人間の神経と接合して義手を動かす方法も研究されており、 腕の神経を胸の筋肉と皮膚の一部に配線することで動作させている。 この場合、神経の再配線のための手術は必要となるが、 神経と接合されているため、手の触覚が得られるだけでなく、 温度まで感じることもできるようだ。 すなわち、実際にものをつかんだときの感覚や腕を振り回すといった感覚が リアルでフィードバックされるようだ。
2009年に実用化される可能性も出てきているということであるが、 いったいお値段はどれくらいになるのであろうか。 30年ほど前に、600万ドルの男(The Six Million Dollar Man)という テレビドラマシリーズがあったが、その名の通り、ドラマの中で 主人公をサイボーグ化する費用は600万ドルだった。 現実の世界では、もっと手の届く値段になることを祈りたいものだ。
脳の神経信号で機械を動かす
表面筋電位も神経信号も、脳からの指令に従って発生している。 であれば、脳の指令を直接読み取ってしまってはどうかと考えるのは 不思議なことではない。実際に、脳に直接、剣山型電極を差し込んで、 脳の神経と機械を電気信号で結ぶ神経インタフェースもある。
サイバーキネティクスは、脳に剣山型電極の神経インタフェースを装着して、 外部装置をコントロールする「ブレインゲート」というシステムを開発している。 このシステムを使って、手足に障害のある成人男性が、 コンピュータのカーソルを操作する様子が公開されて話題となった。 剣山型電極は、生け花の剣山のように電極針が平面上に配置されたもので、 脳に使用される場合は表面から数ミリほど差し込んで使われる。 脳は動きが少ないために剣山型電極を固定しやすく、長期間使用が可能になる。
この仕組みを発展させれば、脳の信号で義手を動かすということが 可能となり、より重度の障害を持った人が義手を装着できる 可能性が出てくる。さらには、「ブレインゲート」のような PCを脳信号で操作できるという仕組みを発展させれば、 今後、障害者向けの新たなインタフェースとして、 さまざまな活用が期待できる。 脳信号でPCを直接操作できれば、体の障害を持った人でも、 健常者と同じように仕事をすることが可能となり、社会的な自立が可能となる。
そういえば、過労死したエリートサラリーマンの脳を移植したサイボーグが 活躍する「企業戦士YAMAZAKI」という漫画があった。 この漫画の中で、主人公の山崎宅郎が、PCと自分の脳を直接つないで PCの操作をするという場面があったように記憶しているが、 こういうことが実現する日も、そう遠い未来ではないのかもしれない。 漫画では、山崎宅郎は、高すぎる機械の身体能力に耐えられず数年の残り少ない命でありながら、 残された妻子のために日夜戦い続けるという物悲しい設定となっていた。 現実社会では、そうではなく、障害のある人が、長い間、障害のない人と同じように 仕事ができることを目指して技術が発展していくことを祈りたい。
本文中のリンク・関連リンク:
- 義手の最前線
- サイバーキネティクス社ホームページ
- 本文中の用語の説明
- スターウォーズのルークの義手:スターウォーズ旧3部作の主人公のルーク・スカイウォーカーが、戦闘で手を失った際に付けた義手のこと。見た目も普通の手と変わらず、痛みも感じることができる究極の義手。
- 企業戦士YAMAZAKI:1992年から1999年まで、集英社『スーパージャンプ』に連載されていた漫画。単行本全も12巻発売されている。