SaaSが普及するには

IT業界では、SaaS(Software as a Service)という言葉がはやりであり、 以前はやったASP(Application Service Provider)とどう違うのか、今後、普及するのかを考察する。

SaaSとASPの違い

SaaSは、アプリケーションの機能を、サービスとして、ネットワーク越しに提供するものである。 ここでいうアプリケーションは業務アプリケーションとオフィス・アプリケーションがあり、 業務アプリケーションの代表は、日本郵政公社(現・郵便局株式会社)が導入した セールスフォース・ドットコム社のCRM(顧客管理ソフト)などである。 一方、オフィス・アプリケーションの例としては、 Googleの文書、スプレッドシート、プレゼンテーションなどが有名である。

少し前にはやった、ASPモデル(Application Service Provider Model)との違いは何だろうか? 根本思想は、かなり似通っているが、違いは、以下のようなものである。 ASPは、クライアント/サーバ技術を基礎にしているが、 SaaSは、WebサービスやSOA(Service Oriented Approach)などの、Webアプリケーション技術を基礎としている。 ASPは、シングルテナント型(1システム1テナント企業)であるが、 SaaSは、マルチテナント型(1システム複数テナント企業)である。

SaaSは、SOA技術により、他のアプリケーション機能と連携して動作することが可能である。 また、この機能をユーザが選択でき、カスタマイズが可能である。

日本の状況

日本では、SaaSという言葉は注目されているが、 しかし、今すぐ、SaaSで業務システムを構築しようという機運にはない。 SaaSモデルとして十分な業務アプリケーションが提供されていない という、にわとりたまご的な現状はあるが、 これは、いまだ、アプリケーションに対する 所有意識と個別カスタマイズへのこだわりが強いからだと思われる。 歴史的にインターネットが今ほど高速でなく、普及していなかったころから クライアント/サーバ型の業務アプリケーションが構築されてきた。 この多くは、パッケージをユーザ企業固有にカスタマイズしたものが多い。 特にIT投資額が多くかけられる企業ほど、この傾向は強い。

公への期待

自治体の業務は、市区を例にとると、国、都道府県で規定されているものと 市区独自のものがある。 国、都道府県で規定されているものは、業務パッケージにあらかじめその機能を 備えるものが多いが、市区独自の業務・制度、種目(税目など)については、 パッケージに当該機能は存在せず、独自のカスタマイズまたは 作り込みが発生する。 この点が、自治体のIT投資コスト(構築、保守コスト)の増大の要因となっている。 しかし、業務全体としては、国、都道府県というより上位の組織で決定されたものが 大半を占め、市区独自の制度をこれに追加することでシステムを構築できる。 この点において、自治体の業務システムは、SaaSモデルにフィットし易い構造となっている。

少なくとも公的機関のITコスト削減のための施策としては、 もっと本腰を入れて、SaaSモデルを追求する必要があるのではないか、と思われる。 これは、SaaS以前の、業務モデルとシステムモデル(DBとAPIの定義)の洗練化にほかならない。 制度と技術がうまく噛み合えば、文字通り最適なシステムができあがるのだが。