「デスクトップLinux」にこだわるな

毎年のように「今年こそデスクトップLinuxが普及する」という言葉を聞くが、毎年裏切られ続けているのが現実である。デスクトップLinuxは洗練されてきたし十分に実用的なのだが、普及しているとは言い難い。昨年の「OSSデスクトップ、普及の鍵はどこにある」では情報提供不足について指摘したが、残念ながら普及は進まなかった。

最大の障壁「慣れ」

数年前までは「Linuxのデスクトップは使いにくい」というのは事実だった。そのためディストリビュータは見た目や操作性をWindowsやMacに似せたり、Windowsに先駆けて3Dデスクトップを導入したりした。また、企業向けにはセキュリティの高さや管理負荷の小ささを売りにした。 しかし、市場シェアはまったくと言っていいほど伸びていない。その技術的な理由について日本OSS推進フォーラム デスクトップ部会 課題抽出タスクフォースの報告書では、プリンタのサポートやオフィスソフトのデータの互換性などを挙げている。もちろんこれらも障壁であるが、それ以上に重要な障壁として「慣れ」があることを忘れてはならない。

たとえば学校にLinuxパソコンを導入すると、小学校低学年は特に困らずにすぐに使いこなし、小学校高学年から中学生になると「使いにくい」という評価が現れ始め、抵抗感は教員で最大となるという傾向がある。柔軟な頭を持った小学生はすぐに順応するがWindows使用暦が長くなるほど拒否反応を示すのである。ユーザビリティの世界でもよく言われることだが、人間は慣れたものからわざわざ別のものに移ろうとはなかなかしないものである。たとえLinuxデスクトップの方が使いやすく優れていたとしても、また、今の環境に少しくらい不満があっても無意識のうちに我慢してしまうのだ。

キラーアプリを探せ

では、他の環境に移る決心をするのはどういうときだろうか?それは移行先が自分に与えるメリットが明らかな場合である。キラーアプリやキラーコンテンツと呼ばれるものだ。たとえばゲーム業界ではひとつの人気ゲームがゲーム機のシェア争いに大きな影響を与えている。あとは何が「キラー」になるかだが、個人的には海外で発売されている格安PCに期待している。

格安PCというとOLPCの100ドルPCが有名だが、他にもASUS Eee PCEverex gPCなどがある。3機種とも価格を下げるためにLinuxを採用してるが、実は筆者が期待しているのは格安PC全体ではなく、gPCだ。gPCは新興のgOSというディストリビューションを採用している。その特徴はインターネットとの親和性である。デスクトップからgmailやgoogleドキュメント、Wikipedia等のインターネットサービスが簡単に利用できるのだ。個人は普段メールとインターネットを使うことがほとんど。だったらインターネットを中心にすえてしまおうという考え方である。

※ 日本ではEee PCのみがWindowsをプリインストールして販売されている。

専用端末で売り込め

パソコンはいろいろなことができることが特徴であり、家電と違う部分である。しかし、今やインターネットさえあれば十分という人も多い。gOSのようなインターネットの利用を前提としたOSはこれらの人々から人気を集めるのではないかと思う。

Windowsはシェアの大きさやアプリケーションの豊富さ、Macはデザインや使い勝手の良さが売りになっている。シェアはWindowsに劣り、デザインや使い勝手でMacに劣るLinuxは何を売りにしていけばよいのか?ASUSが日本ではWindowsをプリインストールしているように、アメリカほど格差の大きくない日本では低価格を売りにしてもシェアは伸ばしにくい。

Linuxの良さはカスタマイズして新しいディストリビューションが作れることである。ともすれば「ディストリビューションが多すぎてどれを選べばいいかわからない」ともいわれるが、これを逆手にとってインターネット端末、教育用端末、コールセンタ用端末など特定の用途に絞って作りこんだらどうだろうか。さらに「○○Linuxです」と売り込むのではなく「△△用端末です」として売り込むのである。日常的に使っているWindowsパソコンを万単位のお金を払っていきなりLinuxに買い換えるのは勇気がいることである。むしろニッチな市場から評価を得ていくことが重要ではないだろうか。