7月12日に参議院選挙が公示された。 テレビや新聞などを通じたさまざまな選挙活動が展開されているが、 候補者が自身のホームページやブログ、メルマガを使って選挙活動をすることはできない。 欧米では当たり前になりつつあるネット選挙活動はいまだ日本では認められていないのだ。
なぜインターネット選挙活動はだめなのか?
公職選挙法では、選挙運動に使用する「文書図画」 はその方法や回数(枚数)が定められており、 通常葉書やビラ以外の頒布・掲示が 禁止されている(公職選挙法第142条、143条)。 ホームページや電子メールはこの「文書図画」に当たると解釈されているために、 “選挙に関連するもの” としてのホームページによる情報発信や電子メールの配信が禁止されているのだ。 むろん、通常の政治活動としてのホームページ、電子メール、 あるいは近年では政治家のブログによる情報発信は広く行われているが、 上記の制約があるために、 選挙運動期間中の書換えや候補者の氏名を記載した電子メールの配信などは行われていない。
ただし、各政党や候補者のホームページを見ればわかるように、 選挙期間中の書き換えはないにしても、 各候補者のプロフィールやマニフェストが掲載されており、 その線引きはきわめてあいまいだ。 3月の都知事選挙では、YouTube で一部候補者の政見放送がアップされたが、 このこと自体は政見放送の媒体や回数を定めた公職選挙法に違反している。 しかし、誰が何の目的でアップしたか明確でないため、取り締まりもしにくく、 またすべてを監視するわけにも行かないので、 実質的にはなし崩し的になりつつある状況である。
欧米、韓国では当たり前のネット選挙
一方、 海外では選挙運動にインターネットを用いることはごく当たり前のことになってきている。 特にアメリカでは1992年の大統領選において、 電子メールによる選挙運動が行われて以来、 また、韓国でも2002年の大統領選以来、 インターネット選挙が完全に根付きつつあるといって良い状況だ。 政策や経歴、発言内容、イベントの案内などの掲載するとともに、 ボランティアの募集や選挙資金集めなどを目的としたウェブサイトも開設されるようになってきた。特に最近では、候補者のブログを通じた情報発信や有権者とのやり取りが選挙結果に大きく影響を及ぼすようにもなってきているといわれる。
日本でも、主に民主党が中心になって1998年、2001年、2004年、 2006年の過去4回にわたり、 インターネット選挙運動解禁法案を提出しているが、 いずれも審議未了廃案となっている。 従来、 ネット選挙解禁へ消極的であるといわれていた自民党内でも前向きな検討が進んでいる模様で、 全体的な方向性としては異論はないのだが、 どこまで許すかといって点で議論の余地があるのだと思われる。 しかしいずれにしても、 ブロードバンド大国である日本がいつまでも選挙活動でのインターネット利用は禁止、 というわけにもいかないだろう。
デジタルデバイドの問題やコストの問題、誹謗中傷や妨害行為の問題など、 いろいろな課題はあるだろうが、完全をもとめてはきりがない。 少なくとも候補者の政策が具体的によくわからず、 名前を連呼されるだけの選挙運動とどちらが良いのか。答えは明らかだと思う。
一票の重みの使い方
政党や候補者がホームページやメルマガで情報を発信するのみならず、 候補者と有権者が意見を交換できるような環境、 これを流行に倣って選挙2.0 と呼ぶことにすると(*)、選挙 2.0 では、 単にポスターがネット上に載る、 ということだけでなく一票の重みを変えてしまう可能性があることを指摘したい。
(*)最近はなんでも 2.0 をつけるのがはやりだが、 すでにこういう言葉も いろいろなところで使われているようである。
一票の重みというのは昔からいわれてきたことだが、 単に票数でいえば、一票は一票でしかない。 「どうせ投票してもしなくても一緒だから」というのは、 少なくとも個人に関していえば正しい。 逆に候補者のことを良く知らずに投票することの方が問題であろう。
しかし選挙 2.0 では一票の重みというのは、 実際の投票の際の一ポイントにとどまらない可能性を持っている。 キーワードは双方向性だ。 たとえば、ネット上で有権者が質問をする。 従来も候補者に直接質問をすることはできたが、その敷居は高かった。 ネット選挙はその敷居を大きく下げる。 候補者はたとえそれが一人(一票)からの質問であったとしてもそれに具体的に答えざるを得ないだろう。 つまり、ただの一票であっても、有権者はそれを武器に候補者から、 自分自身あるいは他の人にとっても有益な判断材料を引き出すことができるのである。
また、従来政治世論はマスコミが作ってきたといっても過言ではないと思うが、 政治家から見れば、政治家自身が世論を作っていくことも可能だろう。 インターネットユーザは昔は世論を形成するようなマジョリティではなかったかもしれないが、今は十分にその力がある。実際アメリカではブログの記事が大手マスメディアに大きな影響を与えてもいる。 確かに候補者から見てこうした仕組みを作るのには手間もコストもかかる。 だが、ネット上での賛同者によるブランティアを募るなど、方法はいくらでもある。 少なくとも名前を連呼する選挙カーにお金をかけるよりもはるかに有益ではないだろうか。
本文中のリンク・関連リンク:
- 我が国のインターネット選挙運動—その規制と改革— (国立国会図書館)
- 諸外国のインターネット選挙運動(国立国会図書館)
- 公職選挙法 (法庫)
- インターネット選挙運動解禁法案を衆議院に提出
2006年6月13日(民主党)