機内でケータイ、使いたいですか?

年数回、中国や東南アジアへの海外出張がある。4〜6時間程度のフライト中、映画を観たり、仕事をしたり、寝たりしているが、暇を持て余すこともある。そんなときは「メールチェックだけでもできれば現地に着いてから楽なのに…」と思う。

機内インターネットサービスはボーイング社が「Connexion By Boeing(CBB)」というサービスを提供していたが、利用者が伸び悩み2006年末でサービスを終了した。しかし、私のようにインターネットを使いたいという需要が無いというわけではない。先月、エアバス社が欧州で機内携帯電話サービスの免許を取得したほか、複数の企業が参入を目指している。

高コストが撤退の引き金に

CBBが終了した理由は、大きな市場である米国系航空会社がCBBを採用せず、利用者を増やせなかったためといわれている。9.11のテロ以降、米国の航空会社は経営に苦んでいた。追い打ちをかけるように原油価格も上昇し、競争も激しくなった。CBBは衛星と通信するアンテナを新規に設置する必要があり、1機あたりの導入コストは100万ドルともいわれる。航空会社はより安価なシステムの登場を期待してCBBの採用を手控えたのである。

新規参入組はコストを抑える

エアバスのサービスは携帯電話サービスである(PCに携帯電話を接続すればインターネットにもつながるはずだ。また、携帯電話のショートメッセージサービスやインターネットアクセスも可能である)。同社が出資するOnAir社の技術を利用したものである。機内には「ピコセル」と呼ばれる超小型のGSM基地局が設置され、機体と地上との間はインマルサット衛星経由で結ばれる。気になるコストだが、Inmarsatの基本設備はすでに機内電話やコクピット用に設置されているため、低コストで導入できる。その結果、利用料金も国際ローミング並みと(ビジネス客にとっては)リーズナブルである。

インマルサット衛星は高度36000kmの静止軌道上にあり通信の遅れが大きいため、衛星回線を介さずに直接航空機と地上を結ぶ方式(Air-to-Ground)を売り込む企業もある。AirCell社はCDMA-EVDOの地上局を空路に沿って設置し、機体と直接通信するシステムを開発している。この機器の価格は10万ドル程度である。機内には無線LANアクセスポイントを設置し、座席のPCからインターネットへのアクセスが可能となる。海上やシベリアのような辺境地では利用不可能なため、主に国内線で利用されることになろう。

電話かインターネットか

機内通信サービスを電話にするか、インターネットのみにするかと選択は航空会社にとっては悩ましい問題だ。ビジネス客にとっては電話もインターネットも同じくらい必要だが、旅行客にも利用してもらうためには携帯電話の方がよい。しかし、ただでさえ狭い密室が、さらに不快な空間になってしまうのは困る。隣の乗客に大声で長電話されたら迷惑この上ない。また、機内で自分の携帯電話がそのまま使えると離着陸時に電源を切らない乗客も出てくるのではないかと懸念する。

さらに、携帯電話サービスにはテロの可能性という恐ろしい欠点がある。携帯電話を起爆装置に使われる可能性があるのだ。貨物室に爆薬と携帯電話を置かれてしまったら誰も止めることはできない。このようなことを考えると、携帯電話サービスよりもインターネットサービス限定の方が安心である。

とはいえ自分の番号で発着信できる携帯電話を使いたいという気持ちもよくわかる。機内では着席していることが前提なので、無線接続にこだわらないというソリューションもあろう。たとえば、機内エンターテイメントのコントローラはすでに電話機能を持っているものもある。これに乗客の携帯電話を接続したりSIMカードを挿入したりするとその電話番号で受信できる、といった仕組みでもよさそうだ。そうすればテロの心配も減り、離着陸時に電源を入れっぱなしにすることも少なくなる。もっとも隣人の大声には対処できないが・・・。

携帯電話もインターネットも、地上・地下を問わずほとんどの場所で利用できるようになっている。私たちの生活に密着しているからこそ、機内でわずか数時間使えないだけで不便に感じてしまう。しかし、航空機は他の公共機関と比べ、乗客の密度が高く国籍もさまざまであり、日本人のように隣人の通話を嫌う人もいればそうでない人もいる。また、ひとたび事故が起きると大惨事になりかねない。有効な解決策が無い現時点では、さまざまなリスクのある携帯電話による通話は認めない方が賢明だろう。