IPv6 普及の夜明けは近い

約 5 年にわたり TakeITeasy の執筆を行ってきたが、
このたび外部出向することとなり、この記事をもって休筆とさせていただきます。 さて、この 5
年の間に大きく変ったこともあれば、期待したほど変っていないこともある。 変っていないものの筆頭は IPv6 の普及状況であろう。
今回は、そんな IPv6 のこれからについて考えてみたい。

ファーストユーザーは誰か

ものごとが普及するためには、きっかけとなるファーストユーザーが必要である。 Everett M. Rogers
によればイノベーションの伝搬には五つの段階があり、 最も重要な段階は第二期である Early Adaptor
(初期採用者)の出現とされる。 Early Adaptor はイノベーションの普及が初期段階にある状態で、
自ら情報を集め、自らの判断によりイノベーションの採用を決定し、 普及のさきがけとなる役割を果す。

Early Adaptor が、ある一定数に達すると、追従して採用を決定する Early Majority が現われ、
普及が本格的段階に入る。 通信の世界ではサービス提供者とサービス利用者が存在する。 IPv6
におけるファーストユーザーは誰になるのだろうか。

政府における IPv6 導入

IPv6 の導入を大規模に行うという話こそあれ、実際に導入した組織はいまだ現れていない。 米国防総省が IPv6
を全面的に採用するという話が取り上げられたのは 2006 年のことであった。 しかし、この話は 2004
年くらいから検討されてきたことであり、 歩みとしては遅々としている感がある。 そんな中、ようやく我が国も IPv6
の採用が現実のものとして見えてきた。

IT 戦略本部により2006年1 月に公開された「IT 新改革戦略」では以下のように IPv6 対応が明記された。
「今後、各府省の情報通信機器の更新に合わせ、 原則として2008 年度までに IPv6 対応を図ることとする。」
さらに、各府省情報化統括責任者(CIO)連絡会議により 2006 年 8 月公開された電子政府推進計画では 下記のように IPv6
の導入を行うことが明記された。 「各府省は、IPv6等普及が見込まれる情報通信技術について、
適用する範囲とその効果を明確にしたうえで、その効果的な導入を図る」 これらの政策決定により、政府システムが IPv6
対応することは原則として決まったといえる。 ただし、その適用範囲については現在も議論の過程にある。
国民とのインターフェースである電子申請は IPv6 対応必須とされているものの、 各府省の内部システムが IPv6
対応とされるのかどうかは不明である。 全府省、全職員の端末までも IPv6 対応とするのであれば、 IPv6
ファーストユーザーの資格有りといえるが、
周辺システムだけの対応を持ってお茶を濁すようなことであれば、期待外れというほかはない。

端末 OS における IPv6 導入

筆者は IPv6 普及・高度化推進協議会の「IPv6
対応 OS 評価 SWG」
の事務局を務めさせていただいた。 この SWG では、主に Windows Vista の IPv6
対応状況の評価を行い、現実面の問題点を探った。 その成果として「 IPv6 端末OS におけるIPv6 対応・IPv6 機能活用ガイドライン(PDF)」
公開している(近日中の更新予定)。 また、筆者は自宅フレッツ網上で Windows Vista を使っている。
ガイドラインの結論および自らの経験として、細かい点での問題はなお存在するが、 端末における実用上の大きな問題はわずかといえるだろう
(ただし IPv6 でアクセスできるサービスは極めてわずか)。 すでに Linux、Mac OS X といった、他主要 OS は
IPv6 対応ずみであり、 Windows Vista の登場をもって、 端末 OS の IPv6
対応は一応の完成を見たといえる。

IPv6 導入のミッシングリンク

政府が IPv6 導入を(形としては)決定し、端末 OS も IPv6 対応をおこなった。 ここまで準備ができていて、なお
IPv6 普及が本格化したような感がないのはなぜか (誰もきづかぬ内に IPv6 に移行してしまうのが理想的ではある)。
それはサービス提供者と利用者の間にある通信事業者において IPv6 普及について積極性が見られないからではないかと、筆者は考えている。
現在、IPv6 を利用しようと考えると(フレッツ網を除き)、 通信事業者にいくばくかのエクストラコストを支払う必要がある。
大きな金額ではないものの、IPv4 を単独で使うよりもコスト増となる。 IPv6
対応にも設備投資が必要であり、人件費も余計にかかるのは理解できるのだが、 IPv6
普及はインターネットの更なる利用拡大と継続のためにメリットのあることなのだから、 ここは少し耐えていただいて、むしろ
IPv4/IPv6 デュアルスタック接続をデフォルトとし、 IPv6
は困るというユーザーのみルータでフィルタリングするような接続メニューにしてはどうだろうか。

IPv6 普及の夜明け

そういうことで、IPv6 普及の準備は着々と進み、後一歩、背中を押してくれる出来事を待つばかりと、
筆者は思う。では、その出来事はいつ頃、起るのだろう。 すでに 10 年もの歴史を持つ「IP アドレス枯渇問題」は「石油枯渇問題」と
と並び称せられるほどの狼少年といわれている。 昨年度の APNIC による調査では 2012 年に枯渇(新規割り振りの停止)とされた。
これは統計的な評価であり確度は高いとされている。 ただし、ここで対象としているのは IANA アドレスプールの枯渇であり、 RIR
さらに LIR と、 各レジストリはそれぞれにアドレスプールを持っており、 すべてのアドレスプールが空になってしまうわけではないので
エンドユーザーが IPv4 アドレスをもらうことが出来無いということではない。
さらに、使われていないアドレスブロックを抱えているユーザーは依然として存在しており、 強制的な回収を実施することができれば、IPv4
アドレスを使いつづけることは不可能ではない。 このあたりが「IPv4 アドレスは枯渇しない」論の根拠となっている。
とはいうものの、残り少い IPv4 アドレスを使い回して、やりくりして行くのは、 新世紀のインターネットにふさわしいとは思えない。
結局、エンドユーザーの要望が無ければ通信事業者、サービス事業者は動きません。 「IPv6 端末OS におけるIPv6 対応・IPv6 機能活用ガイドライン(PDF)」
は、今後も改訂を続ける予定です。 みなさん、お使いの PC を Windows Vista/Linux/BSD/Mac OS X
に更新して、 IPv6 ユーザーの仲間入りをしませんか。 筆者は、二年ぐらいしたら TakeITeasy に戻ってきます。
その時には、本ウェブサーバも IPv6 で稼働していますように。