年末に台湾であった地震で東南アジア向けの海底ケーブルが一部切断されて、 電話回線を含む通信がうまくいかないことがあった。 ネットワークインフラが意外と脆弱であることが露呈した事故でもあり、 数時間である程度復旧したことで冗長性が機能していることを確認できたとも言える。
意外と多いトラブル
昨年はネットワークインフラにかかわる大規模な障害を起こした事例がいくつかあった。 人為的な事故が原因のものもあったし、設計上の問題が影響した事例もある。 NTT東日本・西日本のIP電話などで数十万加入の回線に障害が発生し、 数日に渡って止まった事例が数度あったことは記憶に新しい。 設計上の想定した利用率を超えると、 輻輳が生じて大幅にサービスレベルが低下するるのは、 IPネットワークでも電話回線と同じだ。 また、昨年8月の都内における大規模な停電では、 大規模なネットワーク障害は発生しなかったものの、 オフィスビルが停電で社内LANが使えなかった人も多いだろう。
災害の場合には
一方で先日の地震による海底ケーブル回線の切断事故は災害であり、 敷設されている海底ケーブル7本のうち6本が切れるという通常考えにくい事故である。 しかしながら、日本から東南アジアへの通信のほとんどが 台湾を経由した回線を通じて行われていたことが大規模障害の遠因でもある。 地理的に言えば、 中国・韓国を経由する容量の大きな回線(US-China)もあったはずにもかかわらず、 政治的な理由からあまり積極的に使われなかったようである。 技術的には、MPLSなど基幹系ネットワーク向けのルーティングプロトコルには、 障害検知・回避機能があるため、 それらが機能して、日本-東南アジア間の通信がアメリカ本土経由して通信が行われた。 ただし、伝送距離が伸びたことや容量不足によるパケット遅延が生じて 正常な通信とは言えない状況であった。
対策は
音声通話であれば、あらかじめ発信側で制限をかけることで通信量を制限することが 可能であるのに対し、データ通信の場合には容量の帯域分の契約をするため、 容量を超える通信により遅延や通信不能が生じることは アプリケーション側としては想定していないケースも多いだろう。 そのため、遅延が大きすぎるため、データがうまく取得できなかったり、 トランザクションが正常終了しないなどで、 特にリアルタイム性が必要な金融機関が影響を受けた模様だ。 インターネット向けサービスではなく、VPN上でアプリケーション側で、 このような大幅なネットワークの遅延を考慮することは酷であろう。 ネットワーク側で保証すべきだという考えもあり、 それがNGNのような技術開発につながっている。
また、物理層である海底ケーブルは、 特に太平洋などの長距離の海底ケーブルは高々数本しかない。 光多重化などで容量を増やすことも可能であるものの、 物理的なケーブルを引くことは大規模な投資が必要となるため、 時間的にも容易ではない。 海底ケーブルをもっと大事にしてもいいはずだ。 テロで狙われる可能性も少なくないだろう。 海底ケーブルを保守するロボットがあるといい。 また、静止軌道の衛星では遅延が大きすぎるため、 音声通話用途以外では実質上使えないだろう。 そのため、低軌道の衛星を使った通信も活用すべきである。
こうしたことを考えると、回線を提供する大手通信事業者としては 新興のサービス提供業者のインフラただ乗り論にも正当性がある。 ネットワークインフラを提供するコストが負担されないと 継続的な投資をしないということにもなりかねない。 もはや電力と並んで重要なインフラになっているネットワークが 適切な価格で提供されることが望ましい。
こうした事故の教訓から学ぶことは、 安定したサービスを提供することは意外と難しいことで これらのネットワーク障害は運用ノウハウが重要であることを示している。本文中のリンク・関連リンク:
- IP電話の障害 (2006年3月 2006年9月 2006年10月)
- 都内の停電による障害
- NGN
- MPLS