世界標準から遅れているケータイ業界

先週10/24からMNP(Mobile Number Potability: 携帯電話の同番号移行制)が始まった。 大きな制度の変化でもあり何かと話題も多い。 しかしながら、携帯電話先進国だと思われている日本のケータイ市場は あまり安泰ではない。 世界的に携帯電話網はヨーロッパ、アジアを中心に導入されたGSMが 周波数は異なるものの事実上標準となっており、 海外ローミングで使えないのは日本と韓国だけという状況も含め、 実は世界標準から遅れていることは意外と知られていない。

MNPでは移行できないメールアドレス

これまでは携帯電話会社を変更する場合には電話番号が変更になるため、 携帯電話会社を乗り換えるための障壁とされていた。 そうした不便を解消し、事業者間競争を促すために導入された。

事前の調査(KLab調べ) では、シェアが最も高いドコモとシェアの低いソフトバンクから 最近の純増シェアトップのauに移行すると言われていた。 ところが、開始直前になり、ソフトバンクが予想外の割引プランを多数提示したり、 音声やメールの定額制を打ち出したことが 消費者に評価されたためか、 当初の予想された流出を抑えているだけでなく、逆に流入もあるようだ。 しかしながら、但し書きの多いプランや プラン変更殺到による自社システムの能力不足による混乱でMNPできないといった、 インフラを担う通信事業者としては、その姿勢はあまり褒められたものではない。 ADSL黎明期とは状況が異なり、他2社とは明らかに体力差があるため、 単純な価格競争だけでは成熟期を迎えている携帯電話のシェアを大きく変えるのは難しいだろう。

事前調査でも利用意向は10%程度とそれほど高くないことを考えると、 同番号での移行には余分な費用がかかるため、混乱した状況もあり、 よほど不満がある層以外は様子見の人も多いのが実情だろう。

同番号移行が実現されるようになったものの、 ケータイのメールについては、キャリアごとにドメインを持つため、 番号は移行できてもアドレスは移行できない。 そのため各キャリアではメモリ内の人にまとめて連絡できる仕組みを用意している。 インターネットでもメールサービスを乗り換えるためには同様の手間があるので、 そのうちケータイ向け共通ドメインができるかもしれない。

一方、海外ではSMSという仕組みで電話番号のみで送信できるようになっているため、 番号が移行できれば必然的にメールも移行可能だ。 国内の電話会社にもSMSと同様の仕組みを持っていたものの、 他の電話会社とは送受信できなかった。 3Gになってようやく異なる海外を含め電話会社とも送受信できるようになりつつある。 もっとも番号だけで送れるためspamの温床になりやすく停止している人も多いようだ。

SIMを有効活用すべき

電話会社を乗り換えるよりも端末を簡単に取り替えたいという需要の方が多いだろう。 契約者のIDは端末そのものではなく、 SIM(subscriber identity module、3Gの場合にはU-SIMと呼ばれる) と呼ばれる小さなICカードに記録されている。 実は、FOMA同士、あるいは、ソフトバンクの3G端末同士であれば、 特に手続き無しで他の端末に差し替えて使うことが可能だ。 ただし、国内では一部の海外メーカ製品を除き、 契約なしに端末を入手することはあまり一般的ではない。 携帯電話が格安で購入できるのは、通信キャリアがインセンティブと呼ばれる 販売奨励金を出して、端末の本体価格との差額を補填しているからだ。

日本では多機能な新機種の端末が人気だが、 基本機能を持つ端末をインセンティブなしで購入するので、 その分通話料を安くして欲しいというニーズもあるだろう。 海外では、端末のみを販売店で購入して、 自分でSIMを入れ換えるという方式が一般的だ。 ただし、海外でも日本程高くはないものの販売時のインセンティブを出している 関係で端末だけ移行されてしまうのは、電話会社としても嬉しくない。 そのため、SIMロックと呼ばれる方式で端末には自社と契約したSIMしか使えない ようになっているものも多い。 この制限がなければ、例えば、ソフトバンクの3Gの端末に、 FOMAのSIMカードを差して使うことも可能だ。 もちろん電話会社独自の機能は使えないが、通話やメール(SMS)は利用可能だ。 国内でも新規機種が出ると在庫処分としてほとんど0円になってしまうことを考えれば、 キャリアにとっても在庫分に関しては単体のみで販売してもいいのではないだろうか。

シェア争いの影で

端末メーカにとっては、MNPに合わせて一時期に多数の端末を出すことになり、 この秋に発売された端末は3社合わせると30種類以上になる。 端末の平均買い替え間隔が2年程度であること、年2回発売があることを考えると、 現在契約数である8000万台のうち、1/4程度の2000万台の販売が見込まれる。 単純に平均すると1機種当り60万台程度である。

端末メーカにとっては以前は携帯電話端末は大きなビジネスチャンスであったものの、 国内では在庫や価格低下にさらされて、ほとんど利益が出ていないのが実情だ。 成熟している国内市場のみでは10社以上のメーカでは過当競争とも言える。 一方、海外からの撤退も相次いでいる。 独自路線色の強い日本の高機能型携帯電話のノウハウを生かし切れていない上に、 今や技術的にもそれほど優位性が認められていないため、 市場が大きい世界市場でのシェア上位による寡占状態を崩せそうにない。

今後もケータイの機能アップの要求は強くなるため、 開発コストのアップは避けられそうにないことは明らかであり、 国内のベンダ間でプラットフォーム共通化などによりコスト削減を行なっている。 国内メーカは国内電話会社主導の多機能化市場に注力するだけではなく、 小型化や省電力化などの得意技術を生かして、 海外でも売れるような端末を出す必要があるだろう。

ソフトバンクが打ち出したように使い放題に大きなインパクトがあるのも事実だ。 しかしながら、有限の電波を使う限り、低価格かつ定額で無制限な利用は現状 では難しいはずだ。ビジネスモデルだけでクリアできる問題ではない。 一消費者としては、まずは世界中どこでもつながるケータイとして 基本的な機能を超小型軽量の端末でサービスを提供して欲しいと願っている。