夢の自動操縦は諸刃の剣

スポーツの秋、読書の秋、食欲の秋と言われるほど、秋は何でもありの素晴らしい季節だ。
各地では紅葉も見られる時期でもあるし、車で観光地に出かけられる方も多いと思う。
この季節の観光地へのドライブといえば、何といってもまず思い浮かぶのが渋滞であろう。
ともかく車は進まず、運転をしている側は疲労困憊で、挙句の果てには事故を起こしてしまい、
楽しいはずの観光が、一転して悲劇に、なんてことにもなりかねない。
でも、電車で行くのは大変だし、何とか車で楽して観光地ににいけないものだろうか。

自動操縦と衝突回避システム

車をある程度、自動操縦するシステムがあれば、眠くなったときでも事故を回避できると考える人は少なくはないだろう。
飛行機が、離着陸のとき以外は、自動操縦にかなり依存していることを考えれば、技術的にはそんなにとっぴな話ではない。

筆者は今年の夏にアメリカの田舎町をレンタカーで巡る旅をしたが、オートクルーズシステムを使い、
前に走っている車との速度を上手くあわせると、30分以上もアクセルもブレーキも踏まないで運転することができた。
地平線の彼方まで、緩やかなカーブしかなく、ほとんどの車がオートクルーズシステムで 運転をしているアメリカだからできたことかもしれない。
しかし、この延長線上に今のIT技術を駆使したシステムがあれば、 ドライバーの負担を軽減できる走行支援は実現可能であると感じた。

もちろん、こういったことは自動車メーカーも考えていて、5年近くも前に国産の高級車で走行支援システムを搭載したモデルが登場し、
その後、北米市場にも投入されている。様々な交通法規の関係から、低速運転時や、急カーブでの道での自動操縦は実現できていないのは残念な限りだが、
高速道路での運転ではかなり有効なシステムだ。

このシステムは、ミリ波レーダーが前方の車を絶えずチェックし、先行車がいなければ、
オートクルーズモードで設定された速度で巡航し、自車より遅い速度で走る先行車に追いつくと、
自動的に一定の車間距離をキープして走行するというもの。
もし先行車がブレーキを掛ければ、瞬時にこちらも自動でブレーキが掛かるため、追突する危険性は少ない。 さらに、車内に設置された CCD
カメラで白線(センターライン)を判別し、自車の位置を常時測定して、
車が右や左に寄ると、ハンドルを操作して車線をキープするという仕組みも装備されている。

車線がちゃんと引かれている高速道路くらいでしか使えないが、
事故が起こると大惨事となりやすい高速道路での事故防止に効果的であることは、非常にありがたいことだ。
現状では、コストが掛かるためにトラックやバスなどの商用車に導入されることは難しいが、
いずれ導入されて、大きな事故の防止につながることを期待したい。

車車間通信による新しいネットワーク網

ここまでで見てきた自動操縦の仕組みは、あくまでも自車が他車の情報を取得することによって危険を回避するものである。
この仕組み以外に、他車から情報をもらって、車の安全な運転をサポートする仕組みがある。 これが、車車間通信と呼ばれるものだ。

これは、車と車が通信することによって危険を回避するという仕組みだが、実は、根本的な考え方は、
ごく当たり前にこれまでも行なわれてきたことで、それを応用しただけである。
例えば、道を譲ってもらった際には、手を上げたり、ハザードを出すなどの行為でお礼をする、
高速道路の渋滞の最後尾では追突されないようにハザードを出すなど、
ドライバーとドライバーは様々な手段を使ってこれまでもコミュニケーションを図ってきた。
これを、デジタルな通信の仕組みで発展させて応用しようというものが車車間通信である。

これだけでは、なんだ、単なるトランシーバーでの通信に毛がはえた程度かと思われるだろうが、
車車間通信そんなレベルに留まるものではない。
例えば、住宅街の交差点などでは、見通しが悪い為に他の車がいるのかどうかは直前まで分からない。
しかし、車車間通信を使えば、事前に交差点に入ろうとしている他の車がいるかどうかを、正確に把握することができる。
これは、危険回避の仕組みとしては非常に有効だ。

更にこの仕組みを発展させて、他車で何気なく行なわれている行動から様々な情報を取得するということも考えられている。
例えば、雨が降ってくればワイパーを動かすわけだが、この情報から雨が降っているかを判断するという感じだ。
これは、近くの車との間だけでは何の役にも立たない情報であるが、
これがはるか先の車にまで伝達されていくと、どうやら雨が降るらしいという有効な情報に変わることになる。
このレベルになると、車と車の通信だけでは情報の伝達が難しくなるために、
車が道路を介して車と通信する車路車間通信も用いて情報の交換を行なうことになる。

環境整備へ向けた光と影

ここまで来ると、単なる危険回避の仕組みというものに留まらず、新たなネットワーク網が出現する
という別次元の話になってくることはご理解いただけると思う。
日本の国内で車が走っている場所から生の情報を得られれば、各車がレーダーのような役割を
担って、さまざまな応用が考えられる。しかし、各車の動きというものは、
プライバシーの情報を含むことになり、データの利用のしかた次第では個人を監視することになりかねない。

筆者は、前回のコラムで、テロ防止の名の下に旅行者の情報が収集されようとしていることを述べたが、
各車の移動情報が一括して管理されることになれば、プライバシー保護に対して、 旅行者情報以上の脅威があることは間違いない。
情報を一元的に管理して応用するシステムは、諸刃の剣で、便利さの影に大きな脅威が存在する場合が多い。 既に、自動車ナンバー自動読取装置 による手配車輌の追跡が刑事犯罪捜査の重大な手がかりとなっている
ことから考えれば、犯罪捜査の仕組みも組み込んだかたちでの環境の整備が進むことは確実であろう。

もちろん、これは正しく使われれば事故防止以上に大きな効果が得られる可能性があり、
歓迎すべきことである。交通事故の削減やドライバーの利便性の向上といった本来の目的を
見失わずに、システム環境の整備が進むことを期待したい。
そんなことにはならないと思うが、近い未来に、気付いたら、車を自動操縦されて警察まで
勝手に連行されてしまったなんてマイノリティ・リポートのトム・クルーズみたいな 体験はしたくない。

という未来の話はさておいて、筆者としては、まずは我が家のセカンドドライバーのレベルを上げて、
必要なときにいつでも運転してもらえるようにするというのがもっとも現実的な解決策であろうか。
早く、フェリペ・マッサのようなセカンドドライバーに成長してもらい、私がファーストドライバーを
引退できる日がくることを祈りたい。