自治体がOSSを活用する意義

長らく続いた景気低迷の煽りを受け、昨今の自治体は財政難である。 そこで、システム経費の削減の1つの方策として
自治体へのOSS(オープンソースソフトウェア)導入が注目されている。

自治体のシステム調達・運用コストの構造

自治体のシステム調達・運用において、最もコスト高となっているのは ホストコンピュータのハード、ソフト、運用コストである。
ホストは、特定ベンダーに依存するため、一度入れると、
ハード、ソフト、運用コストとも更新時に競争原理が働きにくく、ベンダーに拘束されてしまう。
ホストに限らずこのように特定ベンダーに拘束されることをベンダーロックインという。
特にホストのソフトは、他自治体への展開が困難なためおのずとカスタムメイドになりやすく、
また、ホスト特有の、帳票出力の不得手なども手伝い、開発費の増大を招いてきた。

デスクトップにおけるワープロなどのオフィススウィートもまた 特定のベンダー製品に依存する体質となっており、
端末数の多い自治体では、OSやオフィススウィートの更新に、それなりにコストがかかっている。
これもベンダーロックインの1つである。

OSS導入によるコスト削減

LINUXやApacheといったOSS(オープンソースソフトウェア)は、世界中の開発者が
ボランティアで開発に貢献する無償のソフトウェアであるが、
OSSの導入により、ベンダーロックインを排除し、調達・運用コストを削減しようという動きが 世界的にみられる。 日本においても、
IPA(情報処理推進機構)のオープンソースソフトウェア活用基盤整備事業
などにより、自治体へのOSS導入支援が行われている。

サーバへのOSSの導入、つまり、LINUXマシンをサーバにしたり
WebサーバにApacheを採用する等は、民間、自治体問わず、ある程度進んでいる。
これは、OSSのセキュリティや性能が評価されているためと、 端末に比べ台数が少なく、ユーザが直接触るソフトではないため
ユーザへの影響が少ないためである。

一方、デスクトップ・ソフトウェアは、 慣れ染みが少ないOSSで代替するには、心理障壁が強いため、
また、当該自治体と業務的にやりとりのある周辺自治体や県、中央官庁といった機関の間での ファイルの互換性の問題等の課題により、
また、何よりもOSSという言葉が自治体業務に十分普及していないこともあり 普及はこれからといったところである。
しかし、先のIPAの昨年度の実証実験の結果等を踏まえても OSSブラウザFireFox等を筆頭に、デスクトップソフトのOSS化は
十分可能性があると思われる。

また、自治体のシステム調達コストの削減といえば、 総務省が主導する共同アウトソーシング事業がある。
この事業は、モデルシステムとして、 住民サービス業務を中心に電子申請、電子入札、文書管理、統合連携システム、
内部管理業務のうち財務会計、人事給与、庶務事務システム、 基幹業務のうち住基関連、税、福祉システムなどを開発している。
共同アウトソーシングはASPサービスであるが、自治体間では無償利用と改変自由という、 OSS的なライセンスで提供される。
完全なASPではなく、ソフトウェアを市町村毎にカスタマイズして 共同利用センターの別の区画にインストールして使う方法であある。

調達・運用コスト削減への覚悟

筆者は、自治体の基幹系、情報系システムの導入支援、開発監理、監査などを実施しているが、
多くの自治体のシステムのコアな部分は概ね共通的なものが多い。 しかし、ベンダーのパッケージをベースに、自治体の固有事情や
固有のこだわりにより、システムをカスタマイズしているのが実態である。 これにより、当該ベンダーしか更新できない、
或いは更新時に競争入札で別ベンダーに調達できたとしても
今度は、詳細仕様やデータ移行仕様の詰めにより多くの労力が自治体側に強いられるという現実がある。
ベンダーにロックインされるということは、 発注者側は、コストを払う反面これらの労力を負担しなくてすむというメリットがある。

しかし、自由な競争によるコスト削減効果を享受するためには、 コスト削減の代償として、これらの労力はある程度は覚悟せねばならない。
この部分の折り合い点として2つ考えられる。 1つは、業務システムを共同アウトソーシング或いは共同調達という考え方。
もう1つは、システム連携基盤、認証基盤といった比較的業務色が薄い 基盤系のシステムを日本でOSS化、デファクト・スタンダード化する
という方法である。 両者とも、先の2つのプロジェクトをベースにまだはじまったばかりであるが、
これらを成熟させるために、自治体間の連携によりOSS活用の意識をより高め、 成熟した製品に劣らない機能と性能を持った基盤システムと、
こだわりまではいかなくとも実用的な業務システムまたはASPサービスが展開できれば この恩恵を一番受けるのは他ならぬ市民である。
業務システムにおけるコスト削減においては、 こだわりを捨て、標準モデルに業務を合わせるといったことも必要であろう。

自治体にOSSを導入するというのは、 長期的にシステムの調達・運用コストを削減することであり、
税金を無駄にせずより有効に活用するという点において意義深いことであるが、
上記のような観点からシステムの発注者側は、ベンダーロックインの本質をもう少し見極め、
かつそれを回避する覚悟を決める必要があろう。