3次元生中継の実現は遠い?

多くの方はスポーツ中継はテレビでご覧になっていると思う。外出中やオフィスではどうだろうか。仕事中にスポーツ中継を見る是非はさておき、PCでテキストベースの実況中継を見ているだろうか。動画のネット配信を利用しているかもしれない。あるいはワンセグ放送を携帯電話で視聴している方もいるだろう。今回はPCで閲覧するネット上のスポーツ中継を取り上げたい。

3次元CGを使った中継

インターネットを使えばインタラクティブな中継が容易にでき、閲覧端末がPCであれば高速な計算も可能である。このようなインターネットとPCの特性を活かしたスポーツ中継はすでにいくつか提供されている。

ひとつは英BBCが提供しているサッカーのハイライト、”Virtual Replay“である。Virtual
Replayはシュートシーンなどのハイライトシーンを3次元CGを使って再現しており、プレーヤやゴール裏など、様々な視点からリプレイを見ることができる。複雑な3次元CGはゲーム終了後に提供されるが、単純なCGは試合中にも提供されるため、テキストベースの実況中継と組み合わせるとそれなりに面白い。

テニスでも4大大会のオフィシャルページにて、類似のサービス”PointTracker“が提供されている。こちらは残念ながらプレーヤは表示されず、ボールの軌道のみである。そのかわり、試合の進行とほぼ同時にプレーが見られる。

見栄えは劣るがメリットも

上記の2つのサービスは、いずれも実写ではなく3次元CGである。そのため、「リアルさ」という点では実写の動画配信にはかなわない。たとえ低画質の動画であっても、CGよりも動画配信の方がよいと考える方も多いだろう。しかし、自由な視点から見られる3次元CGはこれまでにないスポーツ中継の楽しみ方を与えてくれる。

たとえば、中村俊介のフリーキックをテレビで見ても、どれくらい曲がっているのかよくわからない。しかし、Virtual
Replayで見れば、弾道を表示することもできるので、上から見たり横から見たりして、曲がったり落ちたりする様子がよくわかるだろう。テニスでも同様である。ボールがラインにのっているかどうか、様々な角度から検証することもできる。
万人受けはしないかもしれないが、ちょっとこだわりを持った視聴者にとってこのようなツールは非常にうれしいものである。

最終目標は実写3D

Virtual
ReplayもPointTrackはそれなりに面白いが、3次元生中継とでも呼ぼうか、実写画像が自由な視点から見られれば、それが一番魅力的である。実用化に向けた研究は各所で行われているが、いくつか大きな課題が残されている。

課題を解説する前に、簡単にこれらのシステムの原理を説明したい。
PointTrackは、コート脇に10台のカメラを配し、その画像からボールを抽出する。2台のカメラの互いの位置関係がわかっていれば、それぞれの画像に含まれるボールの位置とカメラの位置関係を用いて3角測量の原理から現実世界におけるボールの位置が求められる。現実世界におけるボールの位置がわかれば、仮想カメラ(ユーザが指定した位置にあるカメラ)の画像内のボールの位置を計算し、CGとして表示することができる。Virtual
Replayの仕組みは不明だが、基本的な原理は同様と考えられる。

課題はいくつかあるが、大きな課題として以下の2つが挙げられる。

  1. 現状のカメラの解像度ではズームに耐えられない。
  2. どのカメラからも撮影できていない箇所(オクルージョン)を矛盾無く表示することができない。

各プレーヤを画面いっぱいに表示しようとすると1.の問題が生じ、解決には超々高精細なカメラを開発するか、プレーヤごとに専用のカメラを複数台用意しなくてはならない。これはつまり、コスト・計算量の増大を意味する。後者の問題はとくにプレーヤが密集している時に生じる。たとえ多数のカメラを配置したとしても、どのカメラからも陰になる部分をゼロにすることは不可能であり、さまざまな補間手法が検討されている。

他にも、多数のカメラの画像データを転送するにはネットワークの速度が不足しているという問題もある。これらの課題をすぐに解決することは困難であるが、3次元生中継に関する研究は各所でなされている。たとえば、筑波大学では総務省SCOPEプロジェクトの一環として研究が行われ、成果が動画として公開されている。
動画を見ると、まだまだ実用には厳しいという現実的な判断をせざるを得ないが、同時に早く実用化されて欲しいという気持ちがかき立てられる。
各分野の研究者の尽力により、3次元生中継が早期に実現することを期待したい。また、それまでの次善の策として、3次元CGと同時に生音声を配信することも検討して欲しいと思う。音声情報が付加されるだけでもかなり臨場感があがることだろう。